20回 思い出────美しく華麗で無意味な死に意味は無く、汚濁にまみれた行動にこそ成果と栄華がある
(どうにかしないと……)
既に全てが手遅れではある。
だけど、このままで良いとは思わなかった。
何もしないではいられなかった。
それが無駄に終わるとしても。
(どうする?)
考えは無い。
現状を打破する方法があるならとっくにやっている。
しかし、何か手段はないかと考えた。
まず、ここで暴発しても意味がない。
村の連中を手にかけても事態は変わらない。
そもそも、すぐに取り押さえられるだろう。
なので、これは選択肢からとりあえず外しておく。
いずれどうにかするにしても。
心中というか自殺。
これも論外である。
むしろ下の下でしかない。
心中しても何も変わらない。
多少の同情は集めても、それで何かが変わるわけではない。
むしろ、こんなの加害者への援護でしかない。
報復とは相手に打撃を与えねば意味が無い。
損害が相手に加わらねば何の意味もない。
その点でいくと、心中・自殺は相手に何の打撃も与えずに終わる。
むしろ、報復してくる者を自ら消すという事になる。
加害者へのこれ以上無い援護だろう。
こんなの選択する方が間違っている。
愚行でなければなんであろう?
全ては生きていてこそだ。
死んで何が出来るわけではない。
無駄死には極力避けるべきである。
その上で、最も効果的な手段を用いねばならない。
やるべきは、実際に何かしら行動を起こしていくこと。
そして、ユカを連れ戻す。
その為に何が出来るかである。
残念な事に今のユキヒコに何が出来るというわけではない。
何の能力もないごく普通の農民である。
持って生まれた気を読む力はある。
だが、それだけでどうにかできる程相手は弱くない。
相手…………敵は教会だ。
それを相手にするには、その能力だけでは力不足である。
(とにかく、ここを出ないと)
ユキヒコの腹は決まっていく。
何はなくとも、村に居てもどうにもならない。
この場で何かしても、状況が改善されるわけではない。
それに、ここに協力者はいない。
ユカが教会につれていかれるのに協力すらした連中ばかりだ。
そんな奴らがユキヒコに協力するわけがない。
ユキヒコを呼び出した村長が良い例である。
村の連中はユキヒコの行動を押さえ込もうとするだろう。
全員が敵である。
特に何もしないでいるかもしれない。
積極的にユキヒコにあれこれ仕掛けてはこないかもしれない。
しかし、何かしてこなくても、障害物であるのは確実だ。
それらの中にいてもどうにもならない。
(となれば……)
やる事は一つしかない。
村から出るしかない。
(行くか)
村を出る。
それしかなかった。
ここに居てもどうしようもないなら、選ぶ道はそれしかない。
それで何が出来るかは分からない。
やれるかどうかと言えば、おそらく無駄に終わる可能性の方が高い。
出ていったところで、何かが変わるという保証は無いのだ。
それでも、わずかでも可能性があるならと信じたかった。
わずかなりとも可能性があるなら、そこに賭けるだけである。。
同時に、認めるしか無かった。
幼なじみが自分の手が届かないところに行ってしまった事を。
聖女認定をされた時点で、それは既に決まってしまったようなものだ。
この先に、何があってもこれが覆る事はないだろう。
それでも何かせずにはいられなかった。
(このまま終われるか)
意地だけがユキヒコを動かしていく。
やりたいことは一つ。
ユカを取り戻す。
その為に何をすべきか分からないまま。
だが、今のままでは何も変わらない。
だったら変えていくしかない。
自分も、自分のいる環境も。
自分を取り巻く状況も。
このままでダメなら、このままで無くしていくしかない。
そうでなければ、あまりにも自分が惨めすぎた。
全てに取り残され、流されていくだけなのは。
諦めるにしてもそれなりの手順が必要だった。
絶望するなら、もう少し自分に言い訳が出来るようにしておきたかった。
何もどうにもならないにしても、少しは抗っておきたかった。
何もしないで泣き叫ぶだけなのは、惨めである。
何より滑稽ですらあった。
愚かで哀れで、馬鹿げている。
だからユキヒコは村を出ていく事にした。。
(あとは町に行って……)
軍の事務所に向かう。
やがてやってくる徴兵検査を先んじて受けるつもりでいた。
別に軍隊に入りたいわけではない。
しかし、何かしらの能力や技術は身につけたたかった。
今のままでは、ただの農民でしかないのだから。
こんな状態で何かが出来るとはとても思えなかった。
だからこそ、何かしらの訓練や学習が出来る場所を求めた。
その為の手段として、選べる選択肢がこれしかなかった。
何の手づるも伝手もコネもないのだ。
そんなユキヒコが外に出て生きていく手段。
そして、何かしらの能力や技術を得る手段。
軍隊での訓練くらいしかない。
何でもいいから、そこで何かを身につけようと思った。
それで何が出来るというわけでもないにしてもだ。
今の自分よりはマシになれると信じたかった。
そこからは想定通りではあった。
軍の事務所がある町にたどりつき、自ら志願して徴兵検査を受ける。
落ちると思っていたこれに、予想通りに落ちていく。
そして、検査結果と同時に示された義勇兵への参加申込書。
これに即座に記名し、義勇兵に。
二週間ほどの簡単な訓練を受けて、正式に義勇兵となった。
(ここからだな)
スタート地点に立ったと思った。
ここから、あとはどれだけ努力するか。
どれだけ成り上がれるか。
それだけを考えていた。
簡単にはいかないとは思っていた。
それでも自分でどうにか出来る所にまでは来れた。
ここからは、才覚と努力と、あとは運である。
残念ながら才覚はさほどない。
徴兵検査に落ちるくらいである。
それに運もどうなってるかは分からない。
好きだった娘と引き離されているのだから。
しかし、努力だけは自分でどうにか出来る。
それでも、どうにもならない事はあるだろう。
だとしても、どうにか出来る部分は何とかしたかった。
(やらないと)
まだ何もろくに出来ないのは分かってる。
だから、とにかく何かが出来るようになろうと思った。
そこから数年。
ユキヒコの奮闘が始まった。




