194回 勇者戦後の処理
「来たね」
到着した魔族に、ユキヒコはテレパシーで声をかける。
彼らが抱いてる困惑と恐怖。
一部から感じられる尊敬と信頼。
そういった感情をあえて無視して。
こればかりは仕方ない事だと割り切り、するべき事を提示していく。
「とりあえず、ここにいる勇者と聖女を縛り上げてくれ。
あと、見せしめのための処刑台も用意してくれ。
必要な道具は領主とか貴族に聞けばわかるようにしてあるから」
そういって作業を進めるよう求めていく。
言われた魔族たちは、まずは勇者と聖女の様子を確かめに向かった。
ユキヒコを疑いたくはないが、本当に勇者と聖女を倒したのか確かめねばならない。
そんな彼らが見たのは、疲弊し、手足をあらぬ方向に曲げた男女の姿だった。
いずれも勇者と聖女であるのは、身につけてる装備品からわかった。
身分というか役目というか、そういったものを示す装身具をもっていたからだ。
また、邪神官が神に伺いもたてた。
それにより、目の前に転がってる者たちが勇者と聖女であるのは確定した。
「これは……」
「なんと……」
邪神官とイビルエルフは言葉もない。
戦えば多大な犠牲を余儀なくされる勇者と聖女。
それをユキヒコはたった一人で倒してしまった。
「まさか」
「信じられん」
周りにいる者たちも同じような事を言っている。
だが事実である。
間違いなくユキヒコがやったのだ。
でなければここに勇者と聖女が転がってるわけがない。
全身に傷をうけ、精根尽き果てた状態で。
「これは」
「やるしかないですね」
ユキヒコの言った通りに動くしかない。
倒れてる勇者と聖女のための処刑台。
それを用意しなくてはならない。
「何人かを動かせ。
急いで用意させろ」
「わかりました」
早速部隊が動いていく。
「それと、魔女イエルの教会があるはずだ。
それも破壊しておくぞ」
神との交信が出来る場所は潰しておかねばならない。
勇者と聖女の始末も大事だが、それも放置するわけにはいかなかった。
「痕跡もすべて消せ。
一つ足りとて魔女イエルが介入できる隙を残すな」
放置しておくと何らかの介入がされる可能性がある。
それは真っ先に潰しておかねばならなかった。
幸い、そちら方面もユキヒコの指示が行き渡っていた。
県都にある教会関係者らを洗脳し、必要な情報を渡すように手配されていた。
おかげで余計な時間をかけずに必要な措置を施していける。
教会の破壊、埋設された神々との接点を取り持つための器具。
それらを次々に破壊していく。
これにより県都におけるイエルの介入手段は激減していった。
そして教会関係者。
イエルを女神と崇拝する者たちが連行されていく。
いずれも洗脳がなされてるために抵抗はない。
自ら進んで枷を手足につけていくほどだ。
おかげで魔族の手間は小さい。
それでも対象地域である県都が広い事。
そして、そこを移動させねばならないので時間はかかってしまうが。
しかし、思ったよりも簡単に拘束はされていく。
領主と貴族も同様に集められていく。
それらは洗脳状態を一部解除され、何が起こってるのかを把握出来るようにされている。
だが、体の自由はほとんどなく、用意された処刑台に注目させられる。
それは周辺に集められた民衆も同じだった。
広場に設置されたそこに、身分の違いなく様々な者が集められている。
ただ、都市の人間全員を集める事は出来ない。
いくら広いといっても、都市の人間全員を収容出来るほどではない。
その他大勢は、都市のあちこちに存在している。
そのほとんどがいまだに洗脳を解除される事もなく、夢と現実の狭間をたゆたっていた。
それでも広場には数多くの人間が集まっている。
それらのほとんどは聴衆として、そして目撃者として今後利用される。
今後の事を考え、ある程度の情報は敵にも流しておかないといけない。
ここで何があり、どうなったのかを。
そのためにユキヒコが用意したのがこの舞台だった。
集められた協会関係者。
そして領主に貴族。
何より、勇者と聖女。
主な者たちが集められ、血なまぐさい見世物が開始されていく。




