表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/428

193回 魔族の困惑

 洗脳された者達の間を取っていく邪神官の部隊。

 彼等は警戒しながら県都の中に入っていった。

 事前の処理は為されてるとはいえ、ある程度の衝突を予想していたからだ。

 なのだが、それらしい動きは全く見えない。

 彼等の前のいる民衆の大半は虚ろな目であらぬ方向を見ている。

 邪神官達の事など見えてないというように。

 抵抗がないのはありがたいが、それはそれで不気味であった。



「異様ですね」

「そうだな」

 イビルエルフの感想に邪神官は短く応える。

「おかげで楽が出来るが」

 それはありがたい。

 しかし、だからこそ受け入れがたいものもあた。

「これをあの男がやったと思うと……」

「問題が?」

「いや、敵に回したくないというだけだ」

「確かに」

 頷くイビルエルフ。

 確かにこのように簡単に侵攻できるのはありがたい。

 だが、それは彼等自身の力で成し遂げたものではない。

 全てユキヒコが行った事である。

 それが邪神官とイビルエルフに暗い気持ちを抱かせる。



 実力ではない。

 その為、自分達で成し遂げる事は出来ない。

 それが問題だった。

 ユキヒコの力に嫉妬してるというわけではない。

 ユキヒコがいないと何も出来ないという事実が問題だった。

 もしユキヒコが心変わりをしたら、それだけで状況は変わる。

 それが分かってるから素直に喜べなかった。



 もし、ユキヒコが彼等のもとから去っていったら?

 その瞬間に彼等は敵の猛攻を受ける事になる。

 これまではユキヒコの手引きでここまで来る事が出来た。

 面倒も事前に片付けてくれた。

 それが一気に無くなるのだ。

 これ以上の恐怖はない。



 そうならないようにする為には、ユキヒコを繋ぎ止めておかねばならない。

 その為なら少しくらいの無茶は聞く必要もあるだろう。

 得られる利益と釣り合うくらいのものは提供せねばならない。

 要求があれば受け入れねばならないだろう。

 邪神官とイビルエルフにとってそれが気がかりだった。



「そう無茶は言ってきてないですけどね」

「まったくだ。

 その点は本当にありがたい」

 幸い、邪神官とイビルエルフが懸念するような事態は起こってない。

 今までは。

 これからどうなるかは分からないが。

「イエルを嫌ってるようだからな。

 こいつらが敵であるうちは協力してくれるだろう」

 周囲の虚ろな顔をしている信者共を見渡しながら呟く。

 それはユキヒコから何度も聞いた事である。

 彼が味方を裏切り、魔族に協力する理由。

 それは単純明快で分かりやすいもだった。



 イエルが憎い。

 イエルを潰す。

 イエルを信奉する全ても。



 ただそれだけの為にユキヒコは邪神官達に協力している。

 イエルと敵対する魔族にとってはありがたい話だ。

 それは半永久的に、少なくともイエルと信徒が存在する間は協力してくれるという事なのだから。



 なのだが、その一方で彼の力に困惑もする。

 不可能な事をやってのける程の巨大な力。

 それがどの方向に向かうのか。

 それが気になってしまう。

 邪神官達への害意がないとはいえ、やはり一挙手一投足が気になる。



「敵に回さないようにしないとな」

 出来れば味方に引き込みたい。

 だが、それは相手の考えもあるので難しい。

 仲間であってくれればこれ以上ない程安心なのだが。

 それが出来るかどうか分からない以上、敵にならないよう注意するしかない。

 客として遇するのがせいぜいである。



 広範囲に施している洗脳。

 その結果である虚ろな顔の住人達。

 その間を歩きながら魔族は、ある種の戦慄をおぼえていた。

 仲間であるはずの者が為した事に。



 そんな彼等は広場に到着した時、更なる驚愕に見舞われる。

 彼等の天敵である勇者と聖女。

 それらが疲弊し傷つき頽れた姿をさらしているのだ。

 たった一人、ユキヒコを相手にして。

 そこに魔族は歓喜するよりもある種の恐怖をおぼえていた。

 味方であるはずの存在に。



(ほう……)

 そんな魔族の中で、例外的に感心してる者もいる。

(凄いとは思っていたが)

 ゴブリン部隊の隊長であるグゴガ・ルである。

 彼は恐れおののく他の者達と違い、純粋にユキヒコのした事に感動していた。

 たった一人でこれだけの事をしたのかと。

 それは強さへの憧れや崇拝ではない。

 感動や感心といったものだった。

(やるもんだ)

 最初に出会った時からともに行動してきたグゴガ・ルは、ただただそう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


_____________________

 ファンティアへのリンクはこちら↓


【よぎそーとのネグラ 】
https://fantia.jp/posts/2691457


 投げ銭・チップを弾んでくれるとありがたい。
登録が必要なので、手間だとは思うが。

これまでの活動へ。
これからの執筆のために。

お話も少しだけ置いてある。
手にとってもらえるとありがたい。


_____________________



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ