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192回 対勇者戦 10

 ユキヒコの能力そのものは、以前に比べて大きく変化してるわけではない。

 成長はしているが、その差は小さなものだ。

 奇跡を使った勇者や聖女に及ぶものではない。

 一般人よりは優れているが、どれも人間の基本的な範疇から外れてるというわけではなかった。



 しかし、覚醒階梯が上がったことによる恩恵が大きい。

 これにより、短時間の間ならば能力を爆発的に上昇させる事が出来る。

 もともと、覚醒階梯2で出来ていた事である。

 時期としては、ゴブリンに合流し、前線拠点を襲撃した頃に出来るようになった事である。

 その時点でもかなりの能力上昇をする事が出来た。

 その時より覚醒階梯は更にあがり、能力上昇の効果もそれにあわせて上昇していた。



 上昇は覚醒階梯の分だけ能力値を掛け合わせるようだった。

 つまり、覚醒階梯の2の段階で、能力値の二乗。

 覚醒階梯3なら三乗となる。

 現在のユキヒコの能力値だと次のようになる。





やしろユキヒコの能力値>



体力 108×108×108×108 = 136048896

反射 114×114×114×114 = 168896016

判断 119×119×119×119 = 200533921

心意 134×134×134×134 = 322417936




 これがユキヒコが出せる最大値になる。

 あくまで最大値である。

 出すとしても瞬間的なもので持続させられるわけではない。

 そもそもとして、この最大値を出す事は事実上不可能でもある。

 体がもたないのだ。



 この能力の上昇は気力によってもたらされる。

 もっと言えば、霊魂という肉体よりも根源的なものから出て来る力だ。

 その力は巨大で最大値で出したら肉体が崩壊する。

 その為、ここまで力を発揮する事はない。

 体が痛まない程度の出力に抑える事になる。

 そうする事で、力を持続的に出す事も出来る。



 現在、ユキヒコは能力を2000~3000あたりにしている。

 普通の人間の20~30倍くらいだ。

 これだけでも充分に人間離れしているだろう。

 なのだが、これでも最大出力に比べれば相当抑えた数値におさまっている。

 それでも肉体は損壊を続けている。

 この値でも限界はとっくに超えている。

 肉体を維持できているのは、壊れる前に修復しているからだ。

 それもまた、気力の力による。

 霊魂、あるいは気力に耐え切れず壊れはじめた肉体を、同じ霊魂・気力の力で再生している。

 だから体を崩壊させずに済んでいる。

 当たり前だが、永遠にこの状態を維持出来るわけではない。

 覚醒階梯がもたらす能力値上昇は強力だが、自ずと限界が生じていた。

 それでも、目の前の敵を倒すには充分過ぎるほどの時間を確保できている。



 今の状態ならば一日くらいは保つ事が出来る。

 それだけあれば、勇者と聖女を倒すのに充分だった。

 彼らの能力は、強化されたとしてもせいぜい元の値の数倍。

 数値にすれば500前後。

 普通に考えれば圧倒的に強力なものではある。

 だが、ユキヒコには桁一つ分の差がある。

 到底及ぶものではない。



 この能力差をタダトキは把握出来なかった。

 奇跡による状況・戦術判断を使った時点ではユキヒコが能力を強化してなかったからだ。

 その為、もともとのユキヒコの能力をもとに状況を算出。

 その結果、タダトキ達が有利という結果が出た。

 それ自体は間違ってはいない。

 正確に状況を示していた。

 その奇跡を今使ったら、全く別の結果を示していた事だろう。



 それを知らずに挑んでしまったタダトキ達は不運と言ってよいかもしれない。

 しかし、それを今更言ったところでどうにもならない。

 既にユキヒコとの戦闘は始まっている。

 今更逃げ出すわけにもいかない。

 逃げようとしても、ユキヒコに追いかけられて終わりだが。

 完全に詰んだ状態である。



 そして勇者は、受けた傷を聖域の中でいやしている。

 信者にとって霊的・魔術的に有利な場所を作る聖域の奇跡。

 その中にいれば傷も癒されていく。

 しかし、それで状況が好転する事は無い。

 体が回復したとしても、状況を打破できるわけではないのだから。



 そんな勇者を見ながら、ユキヒコは倒れてる二人の聖女を投げ飛ばす。

 はじき飛ばされたセリカとアカリを掴み、聖域のかかってる中に放り込む。

 無造作に投げ飛ばされた二人は、タダトキとシグレのそばに落ちる。

 衝撃で小さくうめく二人だが、それでもまだ生きている。

 聖域の中ならば、いずれ傷も癒えるだろう。

 シグレの魔術で治療すれば、更に回復は早くなる。

「はやく治してやれ」

 それをユキヒコも促す。

 優しさからではない。

「治したらまた壊すから」

 壊す事なく壊していく。

 その為に促した治療だった。

 それを聞いたタダトキとシグレは絶望的な表情を浮かべた。



 それから数時間。

 勇者と聖女達は死なない程度の重傷を負わされ続けた。

 骨が折れる、内臓などが内出血するのは当たり前。

 それでも聖域による効果で死ぬ事は無い。

 徐々に回復していく。

 また、シグレによる治療魔術もあり、怪我は問題ない程度に消えていく。

 それが余計に苦しみを長引かせると分かっていてもやるしかない。

 一度は拒否したシグレだが、その際には手足を粉砕され、顎も砕かれるほどのいたぶりを受けた。

 そこから聖域による効果で傷を癒していった。

 そのあまりの苦痛に、堪えきれず治療の為の魔術を用いた。

 そこからは、もう何も考えずに治療を続けるようになった。



 その様子を周囲の者達は悲痛な顔で見続ける事になった。

 彼等の意識はタダトキの使った奇跡、士気を向上させるもので正気を取り戻していた。

 それによって少しでも安全な場所に逃げられるように、というタダトキの配慮である。

 しかし、奇跡の効果範囲の外にいる者達によってそれは阻まれた。

 正気を失ったままの多くの者達は、ユキヒコ達が戦ってる場所を囲んでいる。

 そこから逃げ出す事は出来ない。

 そうなるようにユキヒコが人を配置していた。

 その為、正気になっても何の意味もない。

 むしろ、より悲惨な状況に陥ったと言える。

 直接的な危害が加えられたわけではない。

 だが、勇者と聖女がなぶり者にされてるのを見続ける事になる。

 体より心の方が打ちのめされた。

「勇者様……」

「聖女様……」

 時折そんな嗚咽のような呟きが漏れる。

 彼等の希望である勇者と聖女。

 これまで何度も敵を打ち破ってきた存在。

 それが手も足も出ずに叩きのめされていく。

 一方的すぎる経過を見て、暗澹たる気持ちになっていく。

 勇者と聖女がいれば大丈夫────そんな安心感が崩れ去っていく。

 残るのは絶望と悲痛、それらすらも失った虚無感だった。

(もう駄目だ……)

(おしまいだ……)

 言葉にすればそんな風になるだろうか。

 胸の中でそういう気持ちを抱きながら、周囲にいる者達の心は引き裂かれていった。



 そして彼等が知らない所で、もう一つの絶望がやってくる。

 邪神官率いる部隊が県都に到着。

 操られた門番によって開かれた門をくぐっていく。

 無血入城を果たした彼等は、そのまま町の主要部へと向かっていく。

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