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191回 対勇者戦 9

 何が起こったのかを理解した者はいなかっただろう。

 それを受けた当事者も。

 見ていたタダトキ達も。

 そして、周囲にいた者達も。

 分かったのは目に見えた結果だけ。

 絶対命中の魔術攻撃は外れた。

 そして、セリナとアカリの二人が、ユキヒコの前ではじき返された。

 それが明確に示された結果である。



 信じられない事だった。

 絶対命中の魔術は、誘導対象に向かって飛んでいく。

 その追尾性能は高く、狙われたら逃げる事は難しい。

 放たれた気弾に込められた魔力が潰えれば、それも可能ではあるのだろうが。

 しかし、その為には多大な移動距離が求められる。

 それに、魔術による気弾の攻撃は外れたのだ。

 魔力が枯渇するほど飛んだわけでもなんでもなく。

 狙ったユキヒコではなく、その隣にそれたのだ。

 なんなら、着弾の衝撃すら発生した。

 つまり、魔術による攻撃は、何かに当たったのだ。

 誘導の矛先を逸らされて。



 そして、攻撃を仕掛けた二人。

 セリナは動きを鈍らせていき、そして完全に動きを止めた。

 そして、止まったと思った瞬間に吹き飛ばされた。

 アカリは強烈な一撃を撃ち込む途中で、何かにぶつかったように体を跳ね上がらせた。

 そして、その衝撃が終わらないうちに体を吹き飛ばされた。

 最終的な結果は同じであるが、両者にあらわれた効果は違ったものにも思えた。

 ただ、結果に変わりはない。

 二人とも攻撃に失敗した。

 常人ならば避けようもない一撃を。



「…………なんだ?」

 何が起こったのかわからなかった。

 タダトキの目にうつった事の顛末からは真相を解明するのは難しい。

 少なくとも、起こった事実からはそこで発生した現象を調べる事は不可能だった。

 分かってる事と言えば、攻撃が失敗したという事だけ。

 それだけが確実に判明してる事だった。



 そして、その結果セリナとアカリが使い物にならなくなっている。

 吹き飛ばされた二人は地面に転がって動けなくなっている。

 相当な衝撃を受けたのだろう。

 二人ともうめき声をあげてはいるが、すぐに動けないようだった。

 それだけの打撃を受けたのだろう。



「二人に治療を!」

 そう指示を出すと、タダトキは駆けだしてユキヒコに向かっていく。

 前に出て戦う二人が倒れたのだ、このままでは前線が構築出来ない。

 そうなれば、後方からの攻撃や防御を担当するシグレ達が脅威にさらされる。

 それから二人を守らねばならない。

「魔術で攻撃を続けろ。

 倒せなくてもいい!」

「はい!」

 言われてもう一人の聖女も魔術を使っていく。

 先ほどとは違い、小刻みに魔力の塊である気弾を放っていく。

 威力はさほど高くはないが、連射する事で相手を圧倒する。

 また、魔術が効果をあらわすまでの時間を短縮出来る。

 威力が高いものほど、準備に時間がかかる。

 それがつけいる隙を与えてしまう。

 今、それは悪手だった。

 それよりは、弾幕を張るように連続で発射して相手を圧倒する方が良い。

 それに、魔力もそれなりに消耗している。

 先ほどの一撃に結構な魔力を使ったからだ。

 大技を放つ余裕はない。

 しかし、それらがユキヒコに当たる事は無い。

 誘導能力を付与した気弾は全てあらぬ方向に逸れていく。

(なんで?!)

 疑問を抱きながらも、それでも攻撃を続ける。

 命中はしなくても、牽制になればと。



 それを見ながらも、タダトキはユキヒコに向かっていく。

 魔術の攻撃が当たってないのは分かってる。

 牽制にもなってないかもしれない。

 だからこそ立ち向かっていかねばならなかった。

 相手が動き出す前に攻撃を加えねばならない。

 足止めをしなくてはならない。

 倒れた二人が立ち上がるまではこの状況をもたせねばならない。



 それにしてもだ。

 何故三つの攻撃が決まらなかったのか?

 その事がタダトキの不安を増大させていく。

 しかし、答えはそれほど独創的なものでもない。



 まず魔術。

 これについては、誘導先を新たに作っただけである。

 標的となる要素を持つ何かを別に。

 それが体温であったり、魂の波長であったり、魔力の形質であったり。

 そういったものを凝縮した魔力、あるいは気力の塊を別に用意した。

 放たれた魔術による攻撃が逸れたのはこのためである。

 つまり、誘導能力は正しく発揮されたのだ。

 発揮されたからこそ、正しい目標から逸れた。

 それだけである。

 それは、続く連続する攻撃も同じである。

 本人と同様の要素を全て備えた欺瞞装置へと向かっていく。

 魔力の案山子とでもいうべきものに。

 その為、全ての攻撃が外れてしまう。

 いっそ誘導性を持たせず、ユキヒコに向けて放っていたがよっぽど当たる可能性があっただろう。



 セリナとアカリも単純な理由で撃退されていた。

 二人とも攻撃を仕掛ける為にユキヒコに近づいた。

 そこにユキヒコがはりめぐらした気力の防壁があると知らずに。

 ユキヒコは自分を中心として防御用に気力を展開していた。

 その密度はかなり高く、簡単に動きを阻害する程である。

 どれ程敏捷性をあげても、そこに入っていったら動きは鈍る。

 だから二人の動きは止まっていった。

 いや、止まるどころではない。

 予想もしないような衝撃が二人を襲った。



 水中で銃を撃つとどうなるか。

 弾丸は水の抵抗ですぐに動きを止めるという。

 威力の高い銃弾の場合、水の抵抗に弾丸がたえられず、破裂するという。

 セリナとアカリが受けたのは、これに近いものがある。

 二人とも、そうと知らずに気力の塊のような所に飛び込んだのだ。

 無事でいられるわけがない。



 特に絶対命中の攻撃を仕掛けたアカリは悲惨だった。

 絶対命中なので必ず目標に当たる。

 言い換えれば、目標に当たるまで止まる事が出来ない。

 そこに障害物があったとしてもだ。

 今回、気力の壁がそれにあたる。

 そこに絶対命中攻撃を仕掛けたのだ。

 密度の高い気力に阻まれながらも突進を続けるしかない。

 防御用の気力の壁に衝突した剣から全身が壊れるほどの衝撃を受けても。

 突き進む剣が気力の塊によって破壊されるまで。



 その間、剣から手を放すことも出来ずにアカリは、気力の壁の持つ抵抗力にさらされ続ける事になる。

 最終的に武器を失って絶対命中の効果から解放されるまで、気力の抵抗を全身に受ける事になった。

 防御の加護を使ってなかったら、体も残らず消滅していたかもしれない。

 途中ではじき飛ばされたセリカの方がよっぽどマシというものである。



 そんな事、タダトキに分かるはずもなく。

 持てる加護を使って攻撃力を上げていく。

 目の前の敵を倒すため。

 抜いた剣がユキヒコに振りおろされていく。

 奇跡によって上昇した身体能力と技術による一撃。

 それは間違いなくユキヒコに振りおろされるはずだった。

 しかし、それもユキヒコに届くはるか手前で何かに遮られる。

 いまだ張り巡らされる気力の壁。

 それがタダトキの攻撃を妨げていた。



 完全に止まるわけではない。

 だが、とてつもない弾力のある何かに遮られる。

(なんだ?!)

 それが防御用の魔術の効果と似てる事に思い至る。

 だが、これほどまでに強力なものは初めてだった。

 たいていの場合、それは攻撃の速度がわずかに鈍る程度のものだった。

 今のように、動きが止まりそうなほどの抵抗など感じた事がない。

 それでもどうにかして剣を振りおろそうとする。

 しかし、その軌道は進む毎に動きが鈍っていく。

 奇跡の効果をもってしても、気力の防御壁を突破するのは不可能だった。



 そんな刀身を見つめながらユキヒコは腕を伸ばす。

 剣を握るタダトキの手を目指し。

 それを握り腕を振る。

 力任せに。

 ただそれだけでタダトキは、体を宙に浮かしてしまう。

「な…………!」

 一瞬感じた浮遊感。

 そして、投げ飛ばされる感覚。

 何が起こったのか分からないままタダトキは、体を地面に叩きつけた。

 受け身を取る余裕もない。

「…………!」

 声もなくうめくタダトキは、地面に激突する衝撃を全身に受けていた。

「あなた!」

 シグレの声が耳に届く。

 見れば、すぐそくに長年連れ添った聖女がいる。

 その事がタダトキを愕然とさせた。



 ユキヒコのいる所からシグレの場所まで、20メートルから30メートルは離れている。

 つまり、それだけの距離を飛ばされたという事になる。

 手を掴まれてからの一振りで。

 どれだけの力があればそんな事が出来るのか?

 想像するのも恐ろしかった。

(なんて奴だ……)

 ここに来てタダトキは、まだ名前も知らない相手の恐ろしさを実感する事になる。



(こんなもんか)

 投げ飛ばしたユキヒコは、特に何の感慨もなくそう思った。

 手強いとは思っていた。

 今までのように簡単にはいかないだろうと。

 しかし、実際に手合わせしてみれば、それほど脅威というものでもない。

 事前の情報収集と、それを元にたてた対策のおかげだろう。

 だが、それを差し引いても、勇者と聖女という存在がそれほど大きな脅威に思えなかった。

(もうちょっと手強いと思ったけど)

 あるいはまだ奥の手を隠してるのかもしれない。

 だが、それでも今の時点では勇者も聖女もそれほど大きな脅威ではなかった。

(やっぱり能力の差が大きいのか?)

 理由があるとすればそれしか思いつかない。

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