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19回 思い出────社会、権威のため、誰かを犠牲にするのをいとわない

 勇者という存在がある。

 これまた女神イエルに選ばれた者である。

 聖女と違い、こちらは男になる。

 その役目は、魔族と戦い敵を蹴散らすもの。

 戦場の英雄とも言うべき存在だ。



 聖女はこの勇者の同行者に、連れ添いとなる者である。

 共に戦い、共に生活をする。

 戦いの仲間であり。

 男女の仲になる者である。



 女神より加護と奇跡を授かる。

 その力を行使する。

 それだけなら、他の神官と変わるところはない。

 聖女を聖女たらしめてるのは、勇者に追随する事にある。

 戦場においてだけでなく、日常生活でも。



 そして、聖女になるのは何も独身者というわけではない。

 婚約者や既婚者すらも対象となる。

 そういった者達が連れ去られ、勇者の付き添いにされる。

 そういう事態も発生している。

 なので、相手が居るという事は聖女認定から外される理由にはならない。

 全ては女神イエルの考え次第である。



 ユカがそんな聖女になる。

 その事実にユキヒコは衝撃を受けていた。

 考えがまとまらない。

 体に力が入らない。

 立ってはいるが、ふらふらする。

 それは絶望といってよいものだった。

 聖女認定とは、事実上勇者の伴侶になる事でもあるのだから。



 それは女神の意志と教会の組織力でほぼ完璧になされる。

 教会に帰依する信徒もこれに従う。

 それは教会で働く神官達だけに限らない。

 一般的な信徒、ごくありふれた庶民達すらもこれにならう。

 世間全てが勇者と聖女の関係を支持してると言えた。



 また、勇者につく聖女が一人とは限らない。

 むしろ、複数の聖女が一人の勇者につくのが通例である。

 戦場に突入するのだから、仲間が複数の方がいいのは当然だ。

 なので勇者は、だいたいが複数の聖女と共に行動する。

 もちろん私生活においても。

 このため、勇者と聖女の一行は『勇者のハーレム』と呼ばれる事すらある。

 実態もそれで間違いがない。



 ユキヒコの絶望感は、まさにここから発生していた。

 好きだった……という過去形になどなってない。

 今も変わらず好きな娘が、他の男の者になる。

 まして結婚すらほぼ決まってるような相手がだ。

 それが自分らの意思を無視して、他の男のものにされる。

 そんな事を受け入れられるわけがない。



 だが、既にユカは連れていかれている。

 教会の者達の動きは迅速で、聖女認定を告げに来たその日のうちに行動を起こしていた。

 それは、ユカがユキヒコの所におにぎりを届けに行った帰り。

 ユカが戻ってくるまで待っていたという。

 そして、戻ってきたユカをすぐさま連れていったとも。

 その事をユキヒコは、連れてこられた村長の言えで聞かされた。



「こんな事になって大変なのは分かる」

 連れてこられた村長の家でそんな事を言われる。

 何を言ってんだと思ったが、声に出せるほど正気を保ってはいなかった。

 そんなユキヒコに村長の言葉は続く。

「だが、これも運命なんだろう。

 諦めて受け入れてくれ」

 思わず生返事を返そうとした。

 しかし、すぐにそれは怒りにとってかわった。



 頭が沸騰して怒鳴りそうになった。

 飛びかかって殴りつけたくなるほどの衝動をおぼえた。

 それがそうならなかったのは、周囲にいる他の者達のせいである。

 あるいはユキヒコの衝動を予期して予防していたのか。

 呼び出された部屋には、村長以外にも村の男が数人。

 それと神官の衣を身につけた者がいた。

 神官には、更に二人、武装した者もいる。

 それが話に聞く聖戦団の者であろうと、何となく予想した。



 この人数差、ユキヒコの暴発を考えてのものだろう。

 教会の先頭集団である聖戦団の者までいるのもだ。

 後になって考えた事だが、おそらくこういった場で問題が起こる事を想定していたのだろう。

 そして、教会の連中がいたというのは、過去にも似たような事があったからだろうと。

 でなければ、こんなに用意が良いわけがない。



 幸か不幸か、ユキヒコには多少の理性が残っていた。

 ここで激情にかられてもしょうがないと考えるくらいには。

 とりあえず、この場では大人しくしてるしかないと。

 そんなユキヒコに村長は賢しら顔でこんな事をほざいていく。

「人生、こういう事もある。

 これも勉強だと思って、大人になれ」

 反吐が出そうだった。

(だったら、あんたらのガキや孫を好き勝手しても文句いうなよ)

 そんな言葉が喉から出そうになったが、必死に押さえ込んだ。



 大人になれ。

 便利な言葉である。

 だが、ここでいう大人とは、都合のいい操り人形という意味でしかない。

 自分達にとって都合のよい人間になれと。

 それが分かるからこそ、ユキヒコは村長と周りの連中への怒りと憎しみを抱いた。

 この瞬間、ユキヒコはこの村の者全てに見切りを付けた。



 特に腹が立ったのは、その場にいた神官。

 そして聖戦団の連中である。

 ひいては教会に、ともなるだろうか。

 今回の出来事、もとをただせば、教会とそれらが崇拝する女神が行った所業が原因だ。

 その原因である者達は一言も発しない。

 全てを村長達に押しつけ、責任逃れをしてるように思えてならなかった。

 そのくせ、この場に居合わせて自分達の存在意義を発している。

 そこに姑息さを感じずにはいられない。



(こいつら……)

 ユキヒコはそいつらにも敵意を抱いた。

 村の連中もそうだが、教会の神官どもこそユカを連れ去った元凶だ。

 そいつらへの憎しみもしっかりと心に刻み混む。

(おぼえてろよ)

 何をどうするのかはまだ浮かんでこない。

 だが、必ず報いを受けさせる。

 そんな決意をこの時抱いた。

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