188回 対勇者戦 6
視線の方向に進んでいく。
その先がどこなのかは既に分かってはいた。
この県都に住んでるのだ。
目立つ場所などはだいたい知っている。
「城か?」
「それか広場かも」
視線の向かってる先でめぼしい施設といったらそれくらいだ。
領主の居城と、その前にある広大な広場。
厳密に言えば行政の中枢もあるが、それは居城に含まれる。
どちらもタダトキ達が向かう予定の場所だった。
「これ、馬車に乗ったままの方が良かったのかも」
「確かにな」
この状況を作り出した者の目的がそこならば、わざわざ馬車を飛び降りる必要はなかった。
そう思うと無駄な事をしたと思う。
「でも、乗ったままだったら罠にかかってたかもしれないし」
「それもそうだな」
どちらが良いかは何とも言えない。
「敵の罠にはまるよりは良いさ」
そうならなかっただけマシというものだろう。
その分、歩いていかねばならなくなったが。
用心しつつ進んでいき、広場に辿り着く。
そこには既に結構な数の人が集まっていた。
この近隣からやってきたのだろう。
場所が場所だけに平民庶民だけでなく、貴族の姿もある。
また、その数は今も増え続けている。
本当にあちこちから流れ込んで来てるのだろう。
それでもまだ広間は人で溢れるという事は無い。
それくらい広く作られている。
様々な式典にも使われる場所なので、可能な限り広く作られている。
見晴らしも良い。
ここに何があるのかと思いつつ、タダトキ達はその中へと踏み込んでいった。
緊張と覚悟をもって踏み入った広場。
しかし、暫くは何事もなく時間が過ぎていく。
その間にも人が次々にやってきて、周囲が固められていく。
これから集会でも始まるのかというほどの人手だ。
それらを見て、少し肩すかしをくらった気になっていく。
勇んで参ったというほどではないが、その気持ちが空回りしていく。
「……まいったな」
そんな自分の気持ちに、これはまずいと思っていく。
何も無いのは良いのだが、気分がゆるむのはよろしくない。
それが油断や隙になり、いらぬ損害を受ける事になりかねない。
また、低下した士気は簡単には上がらない。
「みんな、気持ちをゆるめるなよ」
そう注意するも、言ってるタダトキが既に気持ちがゆるんできている。
説得力がない。
気持ちを一定に保つというのはとかく難しい。
(これが敵の狙いか?)
そうも思う。
一旦緊張させ、しかる後に消沈させられる。
これほど恐ろしい事は無い。
やる気が空回りしたあとの倦怠感は大きい。
能力を大きく低下させてしまう。
そういった事を狙ってやってるならば、敵はかなりのやり手だろうと思えた。
それに周囲を囲む人間。
これが厄介だった。
もしこんな所で戦闘になったら、確実に住人達を巻き込む事になる。
人によって身動きが封じられてる形だ。
ある意味、人質と言っても良いだろう。
(どうしたもんだか……)
敵がここで襲いかかってきたらどうするべきか。
それを考えておかねばならない。
(最悪、巻き込むしかない)
犠牲が出るのを覚悟で敵と戦うしかない。
下手に長引いたり躊躇ったりすれば、余計に被害が拡大する。
タダトキ達も壊滅しかねない。
それは避けねばならなかった。
(出来るだけ短時間でやるしかないな)
最大火力で一気に蹴散らす。
そうする事で、犠牲を逆に少なくする。
それも考えに入れておく事にする。
「みんな……」
聖女にもその事を伝えていく。
ここで戦闘になったらそうしろと。
仲間はさすがに驚いた顔をするが、すぐに納得をしていく。
彼女らもこれまで戦場を駆け巡ってきた者達だ。
躊躇いが更なる損害の拡大に繋がる事は理解していた。
「そうならなければいいんだけど」
そう言いつつも、その時には躊躇わずに行動しようとしていく。
気は進まないが致し方ない。
「悪いのはこんな風にした敵だ」
そう言ってタダトキは自分も聖女も納得させていく。
実際、人質に犠牲が出るのは、人質を作った方にある。
今回の場合ならば、それはこのような状況を作った敵である。
タダトキ達に非があるわけではない。
巻き込まれた者達は可哀相だが、こんな事をした敵を恨んでもらうしかなかった。
そんな事を考えつつ時間が過ぎていく。
周囲の人は更に増え、タダトキ達を囲うように大きな円を作っている。
その中央に立つタダトキと聖女達は、敵がどう動いてくるかを待っていた。
人の中から奇襲をしてくるのか?
あるいはこのまま人を操って突進させてくるのか?
それとももっと別の手段を使ってくるのか?
考えながらタダトキ達は出方を待っていく。
そんなタダトキ達の前に、ユキヒコは進み出ていく。
空からではなく、集まった人の間から。
真っ正面から堂々と出ていき、タダトキ達の方へと向かう。
驚いた顔をする勇者と聖女を見ながら。
次はまた日を置いて投稿になる。
それまでしばしお待ちを。
なんか書きにくいのよね、戦闘とかって。
特殊能力とかがなければもうちょっと楽かもしれないのに。
それにしても。
連休が終わってしまう。
どうしてなんだ?




