187回 対勇者戦 5
ユキヒコが動き出した頃。
勇者達はまだ現状を把握しかねていた。
解決の糸口が見つからないのだから仕方ない。
ただ、その中で一つ気付いた事がある。
外に出て来た者達が、一様に同じ方向を見つめてる事だ。
「これ、何か意味があるのかな」
「分からん」
シグレの声にタダトキが首を振る。
「あるかもしれないし、無いかもしれない」
「でも、みんなやってるとなると気になるね」
「まあな」
それはタダトキも同じだ。
皆が一様に同じ事をしている。
それだけで気になるものだ。
だからこそ警戒もする。
「罠かもしれない」
この状況で分かりやすい何かが出てきてるのだ。
あやしむのが当然だろう。
「けど、何かあるのは確かだね」
それが罠であるなら仕掛けた者がいる事になる。
また、何かしら意図があるのだろうとも思う。
「用心するにこした事は無いのは確かだな」
タダトキとしてはどうしても危険を考えてしまう。
「けど、このままってわけにもいかないわよ」
慎重に行こうとするタダトキとは反対の声もあがる。
戦闘担当の聖女であるアカリだ。
「明らかにおかしいんだし。
誘いにのる必要もあるかも」
「それもそうだけどな」
言わんとしてる事は分かる。
時に強引な手段が正解な事もある。
むしろ、そういう場合の方が多いかもしれない。
「けど、まだ何も分かってないからな」
それが問題だった。
このまま行って良いかが分からない。
確証が得られない。
無くてもやらねばならない時もあるが、今がそうであるかは分からない。
だから迷ってしまう。
だが、アカリのいう事も分かるのだ。
何かあるのは確かだし、行けば分かる事もあるかもしれない。
危険はあるが、それを覚悟して出向けば得られるものもある。
実際、今までそうやって進んだ事もある。
それで解決出来た時もあるのだ。
とはいえ、その時は授かった奇跡が残ってる状態だった。
だから何とか対処が出来た。
それに比べて今は、既に奇跡を使ってしまっている。
こういう時に効果的な探索・探知系のものをだ。
ここで敢えて罠に挑むのは危険というしかない。
なのだが…………。
「他に手もないか」
現状、打開策が全く無い。
ならば見え透いた罠であっても、そちらに向かうしかない。
危険ではあるが、それも覚悟の上である。
何か仕掛けてあるなら、そこから何かをたぐれるかもしれない。
少なくとも、仕掛けてあるであろう何かは目にする事になる。
ならば設置した者の痕跡も何かしらあるだろう。
それをもとに謎を解明していけば良い。
「でも、慎重にな」
仲間の聖女にそう言ってタダトキは進んでいった。
住人達が見つめる方向へ。




