186回 対勇者戦 4
領主の居城の屋根から周囲を見渡す。
あらかじめ設定していた通り、県都にいるほとんど全ての者達が外に出てきていた。
生まれたばかりの赤子も親に抱かれて出てきている。
いまわの際にいる者すらも、周囲の者達によって外に連れ出されている。
それらのほとんどは、自覚のないままに操られてただ一点を見つめている。
遠くにいる者達はそこが見えるような位置に向かって移動を開始している。
遠く離れた者達は、荷馬車などを使って。
全てはユキヒコの設定した通りである。
(上手くいってるな)
洗脳の効果が出ている事を確かめる。
全員が思い通りに動いてる事にまずは安心する。
問題は勇者と聖女である。
(あいつらも思い通りに動いてくれるといいけど)
これらは洗脳されてないので、どう動くかは分からない。
可能な限りの誘導は施すつもりであるが、それが上手くいくかは分からない。
(まあ、上手くいかなければその時はその時だけど)
世の中そうそう思い通りにはならない。
なっていたなら、ユキヒコはこんな所でこんな事をしてなかっただろう。
今も村で暮らしていたはずである。
それがこんな事になってるのだから、世の中ままならない。
(そこを上手くいくよう頑張らなきゃね)
幸運に期待するわけにもいかない。
採取的に運任せになるにせよ、そこまでは出来る事をやらねばならない。
そう思いながら屋根を蹴る。
そのままユキヒコの体は空に上がっていった。
透視やテレパシー、精神介入による洗脳。
そういった能力に目覚めたせいだろうか。
以前よりも更に気の流れなどが読めるようになっていた。
自分の中にある気も同様だ。
更にはっきりと自覚・知覚出来るようになり、その分使い方も上手くなっていった。
それに応じるように新たな力も使えるようになっていた。
念動力。
物を持ち上げたり動かしたり。
物理的に作用する能力である。
この力をユキヒコは使えるようになっていた。
いつそうなったのかは明確ではない。
気の流れを読み、自分の中にある気の流れに馴染んでいくうちに使えるようになっていた。
おかげで出来る事が大幅に増えていた。
離れたところにある物を動かすだけではない。
発火能力と言われるものから、浮遊まで。
やれる事はかなり大きい。
勇者との対決を前にこの力が使えるようになった。
僥倖と言える。
勝算は確実に上がっている。
精神的な作用だけでなく、物理的に影響を与えられるようになったのだから。
問題はこの力がどこまで効果があるかだ。
こればかりは試してみないと分からない。
それでも、勝算が無いと言うわけではない。
相手は奇跡を既に幾つか使っている。
その分だけ有利な点が減っている。
戦闘に関わるものはまだ手つかずだが、それ以外の手数はある程度減らした。
少なくとも探知系の奇跡はなくなりつつある。
そこが有利な部分だ。
(見つからなければ何とかなるか?)
攻撃を当てるにも、敵をとらえてなければどうにもならない。
当たらなければ、どんなに威力が高くても意味がない。
発見されずに近づく事が出来ればよい。
もっとも直接戦闘になったら不利になるだろう。
そこをどうするかが問題ではある。
(まあ、何とかするか)
やってみなければ分からない部分はどうにもならない。
こうなったら信じるしかない。
自分なら出来ると。
<社ユキヒコの能力値>
体力 102 → 108
反射 109 → 114
判断 106 → 119
心意 112 → 134
教養 +76%
野良仕事 +8%
工作 +11%
動物の世話 +4%
野外活動 +23%
探索発見 +21%
戦術 +13% → 25%
剣術 +46% → 52%
弓術 +16%
柔術 +32%
『転生者』
『覚醒階梯 3 → 4』




