185回 対勇者戦 3
「どうなってる?」
誰にともなく問いかける。
タダトキのその声だけが響く。
その静寂もまた、この異常状態を際だたせる。
人が日々の営みをしていれば怒る雑音。
そうと気付く事もないほどささやかなそれらも今はない。
陽が落ちて夜が訪れた時のような静けさが漂っている。
誰もいないわけではないのに。
馬車を飛び降りたタダトキ達の周りには確かに人がいる。
この県都に住まう者達だろう。
しかし、それらは日中であるにも関わらず、全く動く気配がない。
通りに立って、ただタダトキ達を見つめている。
しかもそれが老若男女全てだ。
ありとあらゆる者達が無言でタダトキ達に注視している。
「どう考えてもおかしいな」
率直な感想が口をつく。
今まで様々な苦難を乗り越えてきたタダトキだが、こういった事は初めてだった。
「いつもと違うな」
「そうですね」
「魔族らしくないよね」
聖女達も違和感を感じている。
彼女らが知る魔族とは、戦場でぶつかりあう存在だった。
それはそれで、戦術的な駆け引きや技巧はある。
しかし、それはあくまでも戦場における戦いにおいてだ。
戦力差はあっても、それは割と明確なものだった。
今のような得体の知れない異様な状況に陥った事はほとんどない。
しかし、今はそうではない。
何が起こってるのかさっぱり分からない。
異常が起きてる事はさすがに分かるが、その原因がはっきりしない。
また、何を狙ってこんな事をしてるのか。
それも読めない。
何もかもがいつもと違う。
それだけに対応や対処の仕方が分からなくなっている。
「せめて何か分かればいいんだが」
そう思うもこれも難しい。
探知系の加護は既に使ってもらっている。
それでも判明しない事の方が多いのだ。
「こんな事なら、奇跡をとっておけば良かったね」
そう言ってセリナは悔やんだ素振りを見せる。
魔族を倒す為に出向いた先で、敵の居場所を発見する為に奇跡を幾つか使っている。
その為、今回の出来事について調べきれない事が幾つか出てきている。
万全の状態だったらば、もう少し何かが判明したかもしれない。
そう思うからこその悔恨がある。
だが、
「そんな事ないさ」
タダトキはそう言って慰める。
「あの時はああした方がいいって思ったんだ。
だから、あれで良かったんだよ」
「でも……」
「もしかしたらそうじゃなかったかもしれない。
でも、それは俺達には分からない。
あの時は目の前の敵を見つけなくちゃならなかったんだし」
その通りである。
結局捕まえる事は出来なかったが、敵の出現位置を知る為に、あの時は奇跡を使わねばならなかった。
それが間違いだったわけではないはずである。
「それに、神でもない俺達に未来の事が分かるわけない。
あの時はああするしかなかったんだし、それが間違いって事はない」
その都度その都度考えて判断した結果だ。
上手くいくかしくじるかはその時次第である。
そして、その結果その後が苦しくなったとしても、それはどうしようもない。
「とにかく、今出来る事をしよう」
必要なのは、いま何をするかだ。
まずはそれを見つける事である。
「……まあ、そうだろうさ」
領主の居城の屋根の上。
そこから勇者と聖女達を眺めるユキヒコはそう呟く。
強化した視覚と聴覚でうろたえてる所を伺いながら。
そこから彼等の考えを知り、誰にとはなく感想を漏らしていく。
「問題はそこからどうするかだよな」
彼等はそれを考えねばならない。
どうやって解決するのかを。
大変な事である。
こうなった原因を突き止めねばならないのだから。
しかも、手持ちの奇跡ではそれを探る事も難しい。
「まあ、頑張ってくれ」
気持ちのこもってない応援を口にする。
「その努力が無駄になるよう頑張るから」
連休最後なのでいつもより多めに投稿。




