182回 必要な者も物も集めていく
『────というわけで、協力者が出来た』
ソウスケの事をテレパシーで魔族に伝えていく。
『今後、彼に国内を調べていってもらうつもりだ』
『分かった』
報せを受けた邪神官はそれを受け入れていった。
突然の事だったが、文句をいう事は無い。
ユキヒコの突拍子のなさはいつもの事だ。
また、それが大きな問題になった事もない。
むしろ、よい結果をもたらしてくれている。
素直に受け入れた方が利益になる。
事後報告になるのだけは改善して欲しいところであったが。
『それで、そっちの方はどうなってる?』
報告を終えたユキヒコは、魔族の方の動きを尋ねていく。
『言われた通りにしている。
出撃は控えて女の管理。
それでいいんだろう?』
『ああ、充分だ。
あと少ししたら移動をしてもらいたいが、それまではそちらで待機しててくれ』
『分かった。
それと、我々の増援だが、こちらも暫くすれば到着するようだ』
『いいね』
ありがたい事だった。
足りない兵力を補う事が出来る。
これで邪神官達を大々的に動かす事も可能だ。
『到着までどのくらいかかる?』
『あと数日というところらしい。
とりあえず先遣隊が2000ほどだ』
『じゃあ、それが到着する前に移動してもらおうか。
女の管理の分だけ残して、こっちに出てくれ』
『分かった。
それで、どれくらい出せばいい?』
『まあ、2000もあれば』
制圧には足りないが、やってもらいたい仕事を考えればそれで充分だった。
『来る時には移送用の馬車も持ってきてね』
『それは女用か?』
『ああ。
そっちが到着する頃には必要になってるだろうから』
状況の報告と、それを元にした今後の展開。
それを決めて通話を打ち切る。
魔族の方が思った以上に素直に動いており、ユキヒコの望み通りの行動をしてくれている。
増援も到着しはじめているので、邪神官達を動かしても余裕がある。
少なくとも後方を手薄にする必要はなさそうだった。
おかげで戦後処理などに回す頭数を確保出来る。
(それで、こっちはと~
邪神官とのやりとりを終えたユキヒコは、もう一方の準備がどうなってるかを確かめていく。
意識を拡大し、目的の方向に集中していく。
視力とは別の視点で、歩いてる大勢の者達をとらえる。
(ちゃんと来てるな)
ちゃんと動いてるようで安心した。
それらは全てソウスケが住んでいた町の者達だった。
いずれも、ソウスケとシグレを引き離した者達である。
それらには町に立ち寄った時に洗脳を施しておいた。
町の者全員で県都に向かうように。
今後において、彼等に自分のやった事の責任を取らせるためだ。
ただ、関係した者だけではなく、町の者全員を対象にした。
関係者を抽出するのが面倒だったからである。
やって出来ない事は無いが、そんな選別をする手間が惜しかった。
何より、本当の意味で関係がない者などいない。
当事者でなくても、その親類縁者、分かってて何もしなかった者。
ソウスケを説得という名の脅迫をした者。
そういった者は幾らでもいる。
味方だった者はいない。
協力した者はいない。
全員、積極的であれ消極的であれ、ソウスケの敵であり加害者である。
全員関係者と言って良い。
その為、町の者達は全員揃って移動させた。
(ととのってきたな)
準備がである。
これからやろうとする事に必要なものが揃いつつある。
人も物も充分に。
そして、それらに施す仕掛けも。
今、県都にいる人間全員に洗脳を施してる。
無駄な騒ぎを起こさせないためだ。
人数が多いから手間だが、それでも丹念に少しずつ洗脳を施していっている。
その時が来たら起動するように。
(あいつらが到着するまで時間があって良かったよ)
あいつらと呼ぶ勇者と聖女。
それがやって来るまでの時間があって助かった。
待つのは面倒だが、事前の準備ができる。
(あとは俺が勝てるかだよな)
最大の問題はそこである。
勝算はある。
勝てないわけではない。
自分と相手の能力を見るに、全く太刀打ち出来ないわけではない。
しかし、目に見える部分だけでは分からない事もある。
単純な攻撃力だけが戦いを決めるわけではない。
持ってる手段を組み立てて作る戦い方によって戦況は変わる。
それを圧倒出来るほどの巨大な力が無ければ、優位にあっても負ける事もある。
そこをどうするかである。
(まあ、やってみるしかないか)
相手の手の内は分かってる。
問題はそれをどう使ってくるかだ。
その対策も考えながら、県都での洗脳を進めていく。




