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18回 思い出────認定という強奪

「…………」

 呆然なってしまう。

 幼なじみの聖女認定という事実に。

 それが何をもたらすのか、どういう事になるのか。

 村に入ってくる数少ない情報から考える。

 それは決してよいものではなかった。

 ユキヒコにとっては。



 村の者達にとってはふってわいた幸運であろう。

 教会から得られる支援と、付随する様々な恩恵を考えれば。

 だが、それは同時に聖女となった者が教会に引き取られる事を意味する。

 否応なしに別離を余儀なくされる。



 つまり、聖女とされた時点で、ユカとの別れは決定的なものになってしまう。

 今後、接点はもう無いと言って良いだろう。

 その事がユキヒコの視界を真っ暗にしていく。

「嘘だろ……」

 ようやく漏らした言葉は、か細いものだった。



 聖女となった者は教会の下に、ひいては女神の下におかれる事になる。

 本人の意志がどうであろうとこれは変わらない。

 これは強制的なものであり、本人の意向は無視される。

 なので、ユカはユキヒコの手の届かない所に隔離されている。

 状況としてはそうなってると考えた方が良い。



 これはユカに拒絶の意思があっても変わらない。

 教会はまず例外なく聖女認定された者をつれていく。

 本人の意向がどうあれ、それは関係がない。

 教会にとって女神イエルの意向が重用であり、他はどうでもいい。

 それが聖女認定された者であろうとだ。

 女神イエルの決定と反する事をするならば、聖女とて相応の対応をする。



 もとより、聖女に選ばれた者が認定を拒む事はまずありえない。

 たいていの場合、聖女認定を粛々と受け入れる。

 名誉な事であるし、周りの多くが利益を得るのだから当然だろう。

 だが、そうでない場合もある。

 ごくわずかなだが例外は存在する。



 理由は様々だが、聖女認定を拒む者もいる。

 地元への愛着が大きかったり、大事な何かがあったりと。

 それらがあるから聖女となる事を拒む者も中にはいた。

 これからは大切なそれらと切り離されて生きていく事になるのだ。

 認定を拒む者も出て来る。



 しかし、そうであっても教会がそれを汲み取る事はない。

 女神が選んだのが聖女という存在である。

 それは貴重な人物であり、教会としては絶対に確保せねばならない対象になる。

 それだけの力を女神から授かる存在だからだ。

 教会としては、そんな人材を確保しようとする。

 女神イエルの意向という事を抜いたとしてもだ。



 何より大きいのは、女神と教会の権威になる。

 聖女認定を拒むというのは、女神と教会を貶めかねない。

 だからこそ、教会は本人の意向がどうあろうと聖女認定を受けた者を確保する。

 事実上の強制連行。

 あるいは、教会版の徴用と言ってもよいだろう。



 だからこそユキヒコは戸惑っていた。

 混乱してると言って良い。

 聖女認定された幼なじみのユカ。

 このまま行けば、自分と結ばれていたはずの娘。

 それと切り離されてしまう。

 その事が本人ですらも驚くほどの衝撃となっていた。

「嘘だろ……」

 何度もそう繰り返し呟くほどに。



 子供の頃から一緒だった。

 他の者よりも気に入っていた。

 不思議と気が合う相手だった。

 だから何となく好きになっていた。

 あまりに日常的だったから、さほど強く意識する事はなかった。

 当たり前のように一緒にいて、当たり前のようにずっといると思っていた。

 しかし、今は違う。



 聖女として連れていかれる。

 自分から引き離されていく。

 可能性ではない、決定した事実としてこれがある。

 だからこそ強く意識する事になった。

 それを拒む自分を。

 彼女と一緒にいたいと願う己れを。



「……どうすりゃいいんだよ」

 いずれ離れていく事が確定してしまった幼なじみ。

 会いたくても会えなくなってしまう好きな子。

 聖女認定を巡って起こった出来事を、我が身にも降りかかった問題を考えてしまう。

 今の己の境遇を。



 まず間違いなく、このまま行けば別かれる事になる。

 さほど好きでもない相手ならばそれでも良かっただろう。

 これが村の他の者ならば、ユカ以外の別の娘だったらばさして気にもしなかっただろう。

 会えなくなったとしても、多少の寂しさをおぼえて終わりになっただろう。

 しかし、そうではない。

 相手はユキヒコ自身が好ましく思っていた相手だ。

 会えなくなるのは心の苦痛だった。



 それに、問題はそれだけではない。

 漏れ聞くかすかな話から、聖女がどんなものなのかを聞いている。

 単に教会のお抱えになるだけでないという事を。

 聖女というものに課せられる任務というものが。

 あるいはそれも女神への奉仕の一環なのかもしれない。

 だが、それはユキヒコにとって絶対に受け入れる事が出来ないものだった。



 聖女になる。

 それは単に女神イエルに選ばれたというだけではない。

 他の神官と決定的に違う事。

 それは、勇者の連れ添いとなること。

 その伴侶となる事にある。

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