178回 残された者の行方 3
周りで商会の者達が働いてる。
そんな中で、ユキヒコと聖女の夫である男は話を続けていく。
気にする者は誰もいない。
ユキヒコの力でそうさせられている。
この場においてそれを咎めたり気にする者は皆無だ。
だからこそ、どんな話でも出来る。
「────だから本音で話してくれて大丈夫だ」
説明を終えたユキヒコはそう言って話を促した。
とはいえ、それですぐに受け入れられるわけもない。
「いや、そんな……」
むしろ困惑度合いをより深めていってしまう。
いきなり超能力やら洗脳やらと言われて、はいそうですかと信じられるわけもない。
そこはユキヒコも予想してたので、
「じゃあ、見ていてくれ」
そう言って近くにいた者達に指を向ける。
「あいつとあいつ、服を自分から脱いでいってもらうから」
そう言うと、指定された者達がいきなりその場で服を脱ぎだした。
驚く夫に向けて、
「これが俺の力だ」
とユキヒコが告げる。
「少しは信用出来たか?」
「…………」
無言で服を脱いだ者達を見る夫。
まだ頭が追いつかないでいる。
だが、目の前で起こった事を信じないわけにはいかない。
コクコクと無言で頷き、ユキヒコに返事をする。
それを見てユキヒコも頷く。
「それじゃ、話をしよう」
「それで何を?」
「あんたの女房だよ」
あらためて問う夫に、ユキヒコはもう一度同じ事を口にした。
「そいつについてどう思ってるのかを先に聞いておきたくてね」
「…………?」
わけがわからなかった。
女房について聞いてどうしたいのか。
まだ話の全容が見えてこない。
「つまり?」
「いやさ、殺してもいいのかなって」
とんでもない事を口にした。
「…………どういう事だ?」
「いやね、俺はさ、今この国の敵をやってんだよ」
「…………」
「つまり、魔族側についてるわけだ」
それを聞いて夫は身を強ばらせた。
「魔族…………?」
「そう。
そいつらに協力して、この国に攻め込んでる」
とんでもない話だった。
「それで、今は俺のところに勇者が突っ込んできてるから。
これを潰さなくちゃならん。
でも、聖女の一人に夫がいるのを知ってね。
先にそいつに会っておこうと思って」
そういうユキヒコの話を、夫は黙って聞いていく。
「つまり、意思確認だ」
無言で自分を見つめる相手に、ユキヒコは言葉を続けていく。
「こっちとしては勇者と聖女は邪魔だ。
倒しておかなくちゃならん。
だから、全力で叩き潰す」
そこに一切の妥協や猶予はない。
「だから、あんたにも一応聞いておこうと思ってな。
まだ女房に未練があるのかと思って」
「…………」
「まあ、無いなら問題は無い。
問題無く殺すだけだ」
「…………もし、まだあったら?」
「別に。
あんたにゃ申し訳ないが殺す。
その事に変わりはない。
やらなきゃこっちが危険だからな」
それはそうだろう。
敵同士、手心を加えるわけにはいかない。
変に情けをかければ、即座にあだになって返ってくる。
そんな事、できる訳もない。
「ただなあ」
そうはいいつつも、ユキヒコはまだ話を終えない。
「それでもあんたの意志くらいは確認しておこうと思ってな」
それがユキヒコの中に残ってる情けであるのだろう。
人間性と言っても良いかもしれない。
「他の男に股を開くアバズレ女でも、あんたの女房だ。
思う所もあるかもしれん。
それなのに、それを確認もしないで事を進めるのもな。
あとで文句言われるのも寝覚めが悪い」
実際、自分の知らない所で事が終わっていたとなれば、色々と思う事もあるだろう。
なので、事前に知らせる事にしたのだ。
ただ、言われた方も困ってしまう。
「それで、俺にどうしろと?」
言われた方も色々と聞きたくなるというものである。




