177回 残された者の行方 2
幸い、男は町にいた。
行商人ではあるが、拠点は県都にある。
そこにある行商人の商会が夫の職場だった。
今は外に出るのも危険なので、まだ滞在していたようだ。
会いに行くのはそれほど難しくはなかった。
洗脳して中に入り、本人の目の前に行けば良いのだ。
あとは正気に戻した本人と話せば良い。
さすがにこの時ばかりは洗脳を解除せねばならない。
素面でなければ会話は出来ないのだから。
「…………え?」
洗脳が解除された瞬間、夫である男は困惑した。
いきなり目の前に見知らぬ男が立っているのだ。
無理もないだろう。
しかも、直前までその男に全く警戒を抱いてなかったのだ。
そこにいるのが当たり前だと思って。
考えてみればおかしな話である。
目の前の男は初対面で、この商会の人間でも無いのだから。
「誰だ?」
そう思って口が動いた。
「まあ、慌てるなよ」
相手はそう行って夫をなだめる。
もちろん、それで納得するわけもない。
「おい、みんな!」
声を張り上げて注意を呼び込もうとした。
空振りに終わったが。
そこでもう一つの異常性に気付く。
周りの誰もが目の前の男の事を気にかけてない事に。
そこに誰もいないかのように振る舞っている。
あるいは、そこにいるのが当然というような調子だ。
何にせよ、正体不明の存在がそこにいるとは思ってない。
それに気付いて夫は更に慌てた。
「安心しろ、周りの連中は俺らの事を気にしてない」
夫に説明をしながらユキヒコは本題に入っていく。
「それよりも、あんたの女房についてだ」
そこで夫はユキヒコを見つめる。
何でその事を、と言いたげな顔をしている。
「聖女をやってるアバズレの事だけどさ。
少し話をしてもいいか?」
問われた夫は、様々な感情や思考を瞳に浮かべた。
悩み迷ってるのだろう。
いきなり言われればそうなるのも無理はない。
それでも夫は、
「……何をだ?」
話を聞く気になっていった。




