174回 勇者タダトキと聖女シグレ 3
最初の頃のシグレは、いきなりの事に驚き震えていた。
それもそうだろうと思う。
いきなり聖女だと言われて教会につれてこられたのだ。
害意がないと分かっていても、不安もあるだろう。
それは同じような境遇だったタダトキには痛いほどよく分かった。
だからというわけではないが、なるべくあれこれと声をかけていった。
自分もいきなり選ばれたのだとか。
驚くのも無理はないとか。
それでも何とかやってるとか。
どうという事は無いという態度をとった。
なのだが、それは逆効果にしかならなかった。
その時のタダトキもだいぶ無理をしていた。
なだめたり慰めるつもりでいたが、顔も声も強ばっている。
動きだってぎこちないものだった。
そんな状態で大丈夫だと言われて納得する者がいるだろうか?
案の定というか。
そんなタダトキを見て、シグレは余計に不安がってしまった。
それはそうだろう。
強ばった、あるいはうわずった声で大丈夫だと言われて、誰が安心するだろうか?
不安な時にそんなものを見れば、余計に不安になる。
シグレも例に漏れず、タダトキを見てシグレは余計に不安を高まらせてしまった。
それでも必死さは伝わる。
やり方は下手だったが、何とか自分を慰めようとしてる事はシグレにも伝わった。
不器用なりに、ものすごく空回りしてるが、タダトキが自分を気遣ってる事が。
それがシグレにわずかながら笑みを浮かべさせた。
多分に失笑めいたものだったが。
しかし、冷笑ではない。
そこから少しずつタダトキとシグレは距離を詰めていった。
今までどうしてきたのか、これからどうなるのか。
話す事は多くはなかったが、それでも何かと話をしていった。
それも必要な事ではあった。
人間関係を作るためだけではない。
勇者と聖女としてやっていく為にだ。
勇者と聖女がどんなものであるかは二人も知っていた。
魔族との戦いに赴き、敵を倒す者だという事は。
当然、いずれは戦場に向かう事になる。
その時に互いに相手の事を理解してないとどうしようもない。
お互いに何ができるのか。
その場において何をして欲しいのか。
それが分からないとどうしようもない。
そういった事を教育係の神官に聞いていた。
また、時折顔を出す勇者や聖女も言っていた。
だからタダトキとシグレは何とはなしに語りあっていった。
お喋りを楽しむというよりは、意思の疎通を図るという義務的な感覚で。
そんなものであっても、何も分からないでいるよりはマシであっただろう。
そんな中でタダトキは知る事になる。
シグレに夫がいる事を。
既に結婚をしているという事を。




