173回 勇者タダトキと聖女シグレ 2
(かなわんな)
頷きながらタダトキはそう思う。
勇者として皆を引っ張っているつもりである。
率先して動き、臆すことなく進んで行こうと思ってきた。
だが、ここ一番というところで、他の者達に助けられている。
今、こうしてシグレに落ち着かせてもらってるように。
むしろ、ここぞという時にシグレに助けられ続けてもらってきたように思う。
(本当に……)
ありがたいと思った。
シグレが自分の聖女であってくれて。
(これも女神イエルの導きなのかな……)
だとするならば、こんなにありがたい事はなかった。
タダトキが勇者になったのは、本当に突然だった。
その日の労働が終わって帰路についてる途中。
そこでいきなり声が聞こえたのだ。
女神イエルの。
その時は聞き違い、幻聴なのだろうと思った。
仕事で疲れたせいだと。
それも労働者の雑魚寝部屋に教会の者達がやってくるまでだった。
そこではっきりとタダトキは勇者だと告げられたのだ。
それからは目の回るような環境の変化におそわれた。
迎えに来た者達によって丁重に案内されて教会に。
今まで見上げるような立場にいた神官や司祭達が跪いて出迎えた。
何事かと面食らっている間に、説明らしき事をされた。
だが、その時に何を言われたのかは全くおぼえてない。
状況に頭が追いついてなかった。
それでもだんだんと自分が勇者である事を理解していく事になる。
あらためて女神イエルから奇跡を授かった事で。
聖戦団にて戦闘訓練を受けた事で。
教会にて下にも置かぬ扱いを受けて。
そんな事を続けてるうちに、今までとは様々なものが変わった事を自覚させられた。
シグレに会ったのはそんな頃。
勇者に選ばれて三ヶ月ほどが過ぎたあたりだった。
ようやく自分が勇者である事を受け入れられたかどうかという頃である。
その時のシグレは、酷く怯えてるような素振りをしていた。
無理もない。
彼女もまた、女神イエルの声を聞いて突然聖女になったのだから。




