171回 手当たり次第に 11
「ただ、それよりも……」
先へと進みながら疑問を口にする。
答えが出ない、状況からの推測に終わるだけ。
そうなるのは分かっていても、疑問はどうしても出てくる。
「誰がこんな事をしたんだ?」
どうしてもそれが浮かんできてしまう。
いや、誰がやったのか、というのは考えるまでもない。
魔族がやったとしか思えない。
それ以外にやるようや者達が想像できない。
今のところ、こんな事をしでかしそうなのは魔族しか想像ができなかった。
少なくとも住人の意志によるものではない。
もし住人が自ら行ったのならば、
『なんでこんな事をしたのか』
などという疑問が出て来るわけがない。
彼等とて好んでこんな事をやったわけでないのはあきらかだ。
それはそうだろうと思った。
何せ、お互いに手足を潰し合ったのだ。
普通の状態でそんな事をするわけがない。
なんらかの力が働いていたと考える方が自然だ。
だとしてそれをやった者はどこにいたのか?
それが問題になる。
考えられるのは魔術によるものだった。
思考を操る魔術というのも存在する。
そういった力で住人達を操った可能性はある。
しかし、これはこれで悩ましいものがあった。
人をそこまで操るとなると、相当な力量の持ち主でないと難しい。
人の心に踏み込む魔術は、ある程度高度なものであるからだ。
また、一度に大量に人間を操るとなると、かなりの人数の魔術師が必要になる。
でなければ何十人、何百人という人数を操る事は出来ない。
それだけの数の魔術師を魔族が動員できるのか?
どうしてもそうは思えなかった。
戦場で魔族の魔術師とまみえる事もあった。
だが、その数はやはり少ない。
魔術を扱える者の数は、味方も敵もそれほど多くはない。
そんな魔術師を大量に集める事が出来るとはとても思えなかった。
仮にそういった者達を集めたとしても、それならそれで何らかの痕跡が残るはずである。
足跡なりが。
しかし、村に残る痕跡の中に、大量に流入した敵のものはない。
見つけられたのは、全て住人達のものだった。
それがタダトキと聖女達の疑問を大きくしていく。
誰かがやったのは確実に思える。
しかし、それを示す情報がない。
誰かがやってるとしか思えない。
だけど、誰がやってるのか分からない。
分からないから対策をたてようがない。
この事がタダトキ達に言いしれぬ不安を懐かせた。




