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17回 思い出────聖女認定、その影響と波紋

 畑仕事が終わって家に帰って来る。

 その時になって初めて気づいた。

 村が騒然となってることに。

「なんだ?」

 不思議に思いつつも村へと戻っていく。

 そこで絶望をするとは知らずに。



「大変だぞ!」

 戻ってきたユキヒコに、村の者が近づいてくる。

「聖女様が、聖女様が出たぞ!」

 その言葉にユキヒコも目を見張るほど驚いた。



 それは近くにある礼拝所にて告げられたという。

 近隣の村を結ぶ所に立てられたそれは、最も規模の小さな教会だ。

 女神イエルを崇拝し、その教義を伝えるための場所。

 その名の通りに女神への礼拝のためにあるものだ。

 基本的に、常駐する神官などもいない。



 なので、設置されてるものも簡素なものだ。

 近隣の者達が女神への礼拝が出来るようの、神像をおさめた祠。

 定期的に神官が訪れて説法・講座を開くための礼拝所。

 基本的にこの二つだけで成り立っている。

 その礼拝所で、この日は異変が起こった。



 この日は珍しく神官がやってきていたのだという。

 それも、かなりの高位司祭を伴って。

 その他にも、数多くの神官・神職もいたという。

 そんな事、今まで無かったので村に残っていた者達はたいそう驚いたという。



 そんな彼らがもたらしたのが、聖女の認定である。

 集まってきた近隣の村長や村の重鎮、時間があった者達は驚きのあまり立ちすくんだという。

 それはそうだろうと話を聞いてるユキヒコも驚いた。

 聖女という存在はそれだけ大きな意味をもつ。

 外の事が良く分からないユキヒコですら知ってるくらいには。



 聖女。

 女神に選ばれた者である。

 女神の加護を受けて、奇跡を起こす者。

 神器を通じて女神の軌跡を世に示す者。

 出自に関わらず、才覚があれば女神に選ばれるという。

 言い換えると、出自がどうであれ素質が無ければ決してなる事が出来ない。

 だからこそ、聖女に選ばれた者が出るというのは、大きな話題になる。

 辺鄙な田舎の村なら特に。



 出自に関わらず発生する。

 つまり、何も無い町や村にも生まれる可能性がある。

 ここが重要だった。

 教会において重要な存在である聖女。

 その生家や出生地が放置されるわけがない。

 何はなくとも、女神を崇拝する教会は、なんらかの支援を行う。



 これが大きい。

 何の特徴もない村にとって、教会からの支援はとてつもなく大きい。

 それをもとにして飛躍した村というのもあるくらいだ。

 だからこそ、どの地域であっても願うものだ。

 自分達の所からも聖女が出ないかと。



 もちろん、この特典は一代に限った事ではある。

 聖女が生きてる間だけの支援だ。

 永遠に続くわけではない。

 だが、そうであったとしても、受けられるならば受けたいのが支援だ。



 たとえ支援が無くなったとしても、それで関係が終わるというわけでもない。

 少なくとも教会関係者にとっては、聖女の出生地は重要な場所になる。

 あくまで教会内部での話だが、出生地は聖地として尊重されていく。

 聖地巡礼として訪れる者があらわれるくらいにはなる。

 そうした者達が落とす金も馬鹿にならない。



 何より、教会がこうした場所を宣伝する。

 これが非情に大きな影響力を持つ。



 教会はただ女神を崇拝するためだけのものではない。

 情報の行き来のない世界における通信網のような存在でもある。

 現代日本でいうところの、テレビやラジオ、新聞にインターネット。

 この役割を担ってると言って良い。

 教会間での連絡とるために、定期的に通信便が行きかってるからだ。



 他にも行商人などが外の話を持ってくることもある。

 しかし、それは地域限定、行商人の行動範囲の中の出来事を伝えてくるに留まる。

 これに対して教会の情報網は、それこそ布教してる全域に及ぶ。

 その布教範囲は一国に留まらない。

 複数の国にまたがる巨大なものだ。

 規模がそもそも違う。



 更に、教会は社会に根付いてる。

 教会にしろ礼拝所にしろ、そこにいる神官や司祭は地元の人間に密着している。

 そういった者達が発する情報というのは、格段の影響力をもつ。

 事実上、各地の教会や礼拝所が情報発信源になっている。



 そんな教会が何くれとなく宣伝をする。

 その効果は絶大なものだ。

 どれほどの利益が見込めるか分からない。

 少なくとも、名声を得ることにはつながる。



 加えて、聖女が出た地域には教会が建立される。

 それに伴って常駐する人が配置される。

 当然、その生活の為に必要なものを購入しはじめる。

 それらがもたらす経済的な効果も出てくる。



 そうなれば、それを見込んで人も集まってくる。

 集まった人が更に様々なものを必要として、より多くの人や物が集まる。

 そうして小さな村がそれなりの町に発展した事もある。



 特に生家への好待遇は顕著だ。

 教会は全力をあげて家族を持ち上げる。

 可能であるならば、教会内に家族を囲いもする。

 村から移転し、教会施設での豪奢な暮らしをする事も可能だ。

 そうなった場合、持っていた田畑などは教会の一時預かりとなる。

 その後の管理は、教会の者が行うことになる。

 田畑などでの収穫は完全に人任せにする事が出来るようになる。



 そうはせず、出身地から離れずに仕事に精を出すものもいる。

 その場合でも、教会はそれなりの対応をしていく。

 財政的な支援はほぼ確実だ。

 この為、聖女の生家はほぼ間違いなく豊かになっていく。



 そんな聖女認定がこの村で発生したのだ。

 騒ぎになるのも当然だった。



「聖女だって?」

「ああ、そうらしい」

「この村からか」

「そりゃあ、めでたい」

「お祝いだねえ」

 そんな声が村のあちこちからあがる。

 当然である。

 辺鄙な田舎から聖女と呼ばれる者があらわれたのだから。

 たとえ教会の優遇がなくても、女神イエルのお告げだ。

 誰もがありがたく受け取る。



 また、あくまで一代限りの特権であってもだ。

 聖女に認定された者が生きてる間は特典を与えられ続ける。

 もたらされる利益は計り知れない。

 加えて栄誉や名誉も伴う。

 それは一般庶民ではまず触れる事が出来ないものだ。

 一躍、名士の仲間入りである。

 だからこそ、欲に目がくらむ者も出てくる。



 今回、聖女に認定された者を出した者達も例外ではない。

 押し寄せる教会関係者と、それらが持参する手土産。

 教会からすれば手付け金程度のものである。

 なのだが、田舎の村では莫大な金額である。

 そんなものを見て正気を保っていられるものは少ない。



 今回、聖女認定を受けた娘を出した家も例外ではなかった。

 積み上げられた金をみて理性を崩壊させた。

 なので、示された他の条件を一も二も無く承諾した。

 そこには、村から離れる事がしっかりと含まれている。



 これは教会なりの配慮ではあった。

 これまで見た事もない程の栄誉が転がり込んでくるのだ。

 それを狙う不心得者が接触してくるようにもなる。

 分かりやすい強盗や泥棒は言うに及ばず。

 親類縁者や村の者達によるタカリや妬みなども発生する。



 それらに対処するために、あえて引っ越しなどをすすめるのだ。

 そうでもしないと身を持ち崩す事になりかねない。

 教会としては、聖女の家族にそんな道を歩んでもらうわけにはいかない。

 それでは教会と教義、女神の沽券に関わる。

 教会自身の保身のためにも、家族はそれまでいた者達から切り離す必要があった。



 村長あたりになれば、こういった措置も含めて受け入れていくようになる。

 聖女の家族がいなくなるのはそれなりの痛手であるが、それでも村が受け取る利益は大きい。

 聖女の出生地としての名誉は充分に村に利益をもたらしてくれる。

 少なくとも周辺地域への影響力は得られる。

 それは、直接の統治者である末端の領主をしのぐほどだ。



 聖女によって得られる権威。

 それがもたらしてくれる名声は、様々な無理難題を退けるには充分だ。

 少なくとも、納める税の軽減くらいは簡単にできるようになる。

 何かにつけて要求される賄賂(臨時徴税という名を借りる事もある)をはねつける事も。

 また、何かしら後回しにされる、様々な設備や施設の建造・補修なども容易く行われるようになる。

 これらを断れば、領主の名に傷がつくからだ。

 少なくとも、教会はそんな領主相手に黙っていない。



 これらは聖女の家族が村にいるかどうかは関係がない。

 聖女の出生地という事で、ほぼ永続的に教会が後ろ盾になってくれる。

 だから村長などは、聖女の家族が村から出て行く事を止めたりはしない。

 いなくても得られる利権は残るのだから。



 むしろ、聖女の家族が教会に移ることをすすめたりもする。

 今後、強盗やらたかりにくる人間などが村にやってこないようにするために。

 そういった面倒を抱えるくらいなら、家族ごと聖女が教会に入ることを求める。

 村の事を考えるなら、その方がお互いのためだった。



 実際、これまで聖女を輩出した町や村は、急速な発展を遂げたところもあるのだ。

 才覚のある者ならば、これを踏み台にして更なる栄達を手にする者すらいる。

 村を拡大し、産業を興し、町にまで発展させ、それこそ領主になる者すらいた。

 そこまでいくのは、相当な手腕を持つ者だけではあるのだが。

 そこまでいかなくても、聖女のもたらす恩恵は計り知れないほど大きかった。



 しかし、全ての者が恩恵を受けるわけではない。

 あおりを受ける者は必ずあらわれる。

 今回、聖女認定を受けた者を知る一人がそれとなる。

「ユカが……」

 幼なじみの聖女認定を聞いて、ユキヒコはかなりの動揺をしていた。

 衝撃どころではない絶望を抱きながら。


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