169回 手当たり次第に 9
ユキヒコの望み通り、勇者と聖女達は足止めをくらう。
出撃するべきか、今は待機して様子を見るべきか。
そこで意見が割れる。
そうしてる間にも魔族が動く事を忘れて。
そして勇者と聖女が動きを止めてる間に、ユキヒコは進んでいく。
村や町を潰し、市街へと。
市街でもやる事は同じだ。
洗脳して見張りを騙して内部に入る。
入ってからも周囲にいる者達を洗脳していく。
物資を運び出し、女は自らの足で歩かせ、魔族のもとへと向かわせる。
それ以外の者達は互いに手足を破壊させていく。
ついでに教会も破壊していく。
女神の力の中継地点にもなる場所だ。
残しておくわけにはいかない。
とりあえずは建物を。
神の力などについては、後にくる邪神官達に対処を任せる事にする。
そうしながらユキヒコは次の領地に向かっていく。
そこでも同じように村と町を襲撃していく。
それが終わってからテレパシーで魔族に連絡を取り、物資と女の受け渡し場所を提示していく。
ユキヒコの道案内によって進む魔族は、敵に遭遇する事無くそれらを受け取っていく。
その動きを知り、勇者と聖女も決断を下す。
後方を脅かしてる敵を倒すと。
目の前にいる魔族も問題だが、後方を次々と陥落させていく敵を放置も出来ない。
それらを放っておけば、逃げ場所すら無くなる。
そうなる前に敵を倒さねばならなかった。
急ぎ出撃する勇者と聖女達。
領主と警備の兵士達は、その後を追うように出発していく。
多くの民と共に。
背後から魔族が襲撃してくるのではないかと気にしながら。
「行ったか」
離れた所からそれを見ていた邪神官は、大きく息を吐いた。
「しかし、襲撃しなくて良かったんですか?」
「仕方ない」
イビルエルフの問いに、ため息と共にこたえる。
「なんだかんだで数が多い。
我々だけでは手にあまる」
大半が負傷者、まともに体を動かせないとはいえ、一万を超える数である。
それに対して邪神官達魔族は、増援を得たとはいえ4000。
数の差は倍以上だ。
簡単に倒せるものではない。
それに、あちこちの村や町を襲撃してるので、手元にいる人数はそれほどでもない。
ユキヒコから女と物資を受け取ってる者達もいるので、この場にいるのは数百というところだ。
この数では、襲っても返り討ちにあう可能性が高い。
「ここは黙って見送るしかない」
「それもそうですが」
それでもイビルエルフは不満があった。
少しは敵の数を減らしておきたいと。
だが、無理を押し通すつもりもない。
やれば損害が大きくなる事を押し通すほど愚かではなかった。
「それよりも、空き地の整理だ」
そういって邪神官は配下を促す。
「町がそっくりそのまま手に入ったんだ。
整理に忙しくなるぞ」
「それもそうだな」
言われてイビルエルフも目の前の仕事に目を向ける。
これから更に増援を受け入れていかねばならない。
そうなると無傷で残った市街はうってつけだ。
特に手を入れる事もなく利用が出来る。
また、周辺の村や町にも入植者を入れねばならない。
そこにある田畑や工房などを放っておく必要はないのだから。
それらの把握の為に、暫く忙しくなる。
「あと、悪女の集会所も破壊しないと」
「そうだな」
教会の破壊である。
残しておいたら、彼等の敵である邪神イエルがつけいってくる。
これだけは徹底して破壊せねばならない。
そして、彼等が信仰する神々を呼び込まねばならない。
それだけでもけっこうな手間がかかる。
楽して陥落させはしたが、やる事はまだまだたくさんある。
「忙しくなるな」
「ああ」
二人はため息を吐いた。
「それと、聖女の館は?」
「それもこちらに作らなくちゃならんだろ」
新たな女が続々とやってきている。
それらの収容する場所も作らねばならない。
今後の事を考えれば、これも放置するわけにはいかない。
むしろ、最優先でどうにかせねばならない問題である。
「少しでも増やさないとならんからな」
先々の事を考え、邪神官は軽く目眩をおぼえた。




