165回 手当たり次第に 5
領主の行動はそれなりの迅速で的を射たものであった。
自分らでどうにも出来ない状況ならば、手っ取り早く出来る対策を行っていく。
その判断が出来ないほど無能ではない。
更なる避難を民に告げ、行動を開始していく。
状況の改善には繋がらないが、損害を減らす事は出来る。
最善ではなく次善ではあるだろうが、それでもやらないよりはマシだった。
少なくともこの判断を下すにあたり、おかしな事に拘ってはいない。
貴族の名誉や意地といったものに。
領地を捨てる、領民を保護出来ない。
貴族として当たり前の事が出来ない。
これは能力を疑われる原因になる。
間違ってはいないのだが、この部分だけしか見ないという通弊が貴族にある。
あるいは、これを利用して失脚させようという陰謀なのだろうか。
おかれた状況を鑑みないで言い立てるという問題が貴族にはある。
その為、しなければならない避難が遅れる、対策が遅れるという事がある。
それをしないだけ、この領主は賢明であるだろう。
そもそもとして領主の仕事は、損失や損害を可能な限り避けるというのもある。
その為に民衆を避難させる事も仕事のうちである。
これを無視して別の部分だけを取り上げて糾弾する方が間違っている。
だが、相手を追い落としたいという、優越感だけを優先した考えで動く者がいる。
そうした者達が逸脱してる部分だけを取り上げて文句を言う。
そこに便乗して相手を追い落とそうとする者達が集まってくる。
これにより失脚に陥る事もあるので、やらねばならない事が出来なくなる事にもなる。
馬鹿げた話だが、こういった事が横行している。
これは貴族に限った事ではない。
こういった者を放置する人間社会によくある話だ。
これらを振り切って領民の避難を進めるだけでも、ここの領主はまともと言えるだろう。
本来やるべき、やって当たり前の事をやってるだけなのにも関わらず。
もちろん、当たり前とはいえやるべき事をやってるのだ。
充分に賞賛するべき事である。
しかし、それを認めない社会というのも厳然として存在する。
それが被害や問題を無駄に拡大していく。
そういったものとも領主は対峙せざるえない。
それはもう敵というしかない。
最も厄介な部類の。
対立してる敵ならばまだ良い。
倒せばいいのだから。
しかし、味方のふりをしてる敵はそうはいかない。
すぐそばにいて、しかも容易に倒せない。
それだけに厄介だった。
そんなものを野放しにしてる、対処出来ないでいる社会そのものが問題でもある。
それらを無視しての避難勧告である。
それだけでも大したものであろう。
そんな時に更なる難民が流れ込んできた。
彼等がこれから避難しようとしていた方向から。




