164回 手当たり次第に 4
必要なのは事態の打開である。
魔族を撃退し、問題を排除する事。
それが出来れば問題は解決する。
全てが元に戻る事はなくても、魔族による被害の拡大は無くなる。
それだけでも達成しなくてはならない。
しかし、それが全く出来ず、あちこちでの魔族の出現情報だけがもたらされてくる。
その事が不安を更に拡大していった。
この事態に領主は機嫌を悪くしていく。
自分の領地がおびやかされてる事。
足下の市街で民衆がざわついてる事。
問題を解決するべき勇者が一向に何も出来ないでいる事。
それらが彼の気持ちを揺さぶっていく。
領主もそれは仕方ないとは分かっている。
魔族が神出鬼没である事。
それをとらえるのが難しい事。
だが、状況が改善されるわけでないのも分かっている。
このままでは自分らがますます不利になる事も。
既に避難民で市街は混乱している。
先にやってきた隣領の避難民も含めて。
それらを支えるだけでも手が一杯だった。
そこに自領の民が更に駆け込んでくるのだからたまったものではない。
隣領の市街で起こった混乱も発生しつつある。
そうなる事も、隣領からやってきた者達の口からの聴取で予想はしていた。
時間がかかればいずれここでも同じ事が起こるだろうという事も。
それが分かってるから領主も早急な解決を望んでいた。
急がなければ間に合わなくなると。
また、そうであるならば更なる避難をせねばならない。
問題が大きくなる前に。
何より、物資が滞る前に。
これも事情聴取で分かった事だ。
魔族が攻めてくる前に物資が滞ったと。
輸送や行商が来なくなったと。
前後の状況を考えれば、それが魔族の手による工作だと予想は出来た。
同じ事がここでも起こるかもしれない。
少なくとも、村や町から攻め落とすというやり方は共通している。
それならば、これから起こる事も同様だと考えるのは当然だろう。
これらを考え、領主は早急な避難をすすめていった。
ここの領主は凡庸ではあるかもしれない。
しかし無能ではない。
優れた才能は持ち合わせてはいないだろう。
だが、無学ではない。
世襲で領主をやってる貴族であるが、子供の頃から統治の現場で生きている。
それが自然と彼に相応の振る舞いというものを身につけさせた。
門前の小僧習わぬ経を読むというものである。
才能や才覚がなくても、それなりの事が出来るようになる。
それがその家に生まれた強みであろう。
また、遺伝というものもそこには働いていたのかもしれない。
何にせよ、領主は妥当な事を思いつき、考え、実行するだけの能力はあった。




