163回 手当たり次第に 3
「くそ……」
出陣した勇者、日摘タダトキは焦っていた。
常に後手を踏んでいたからだ。
「どうなってる……」
疑問と焦りが口から出る。
彼等はそれくらいひっかき回されていた。
魔族の出現地帯、緊急の使者が出された地域には到達した。
そこで領主のいる市街を中心にして行動を開始した。
攻め入った魔族を見つけて撃退しようと。
しかし、それは何一つ上手くいってない。
既に陥落してるいくつかの村や町はもうどうしようもない。
崩壊してしまったものを守る事は出来ない。
当然ながら復活も出来ない。
亡くなった者達を回復させる事は出来ないのだから。
また、人を再び戻すにも、魔族を蹴散らさなければどうしようもない。
脅威となる敵がいる状況で人を戻しても、再び襲われる可能性があるだけだ。
それに、生き残って逃亡してきた者達のほとんどが体をこわされている。
手足や片目が潰されてる者ばかりである。
そんな者達を戻しても、以前のようにはならない。
他の者の手助けがなければ生活も難しいのだ。
そんな状態で戻しても生活がたちいかなくなり、程なく滅亡するだろう。
そういった者達を治す事も出来る。
神の奇跡を用いれば壊された体を元に戻すことも出来る。
それくらい女神のもたらした奇跡は強力だ。
しかし、それはまだ出来ない。
敵を殲滅し、安全が確保されなければ無理である。
治して戻しても、また襲われて同じような措置をされたら元の木阿弥だ。
元の状態に戻すには、敵を殲滅するしかない。
確実に脅威が取り除かれた事を確定するしかない。
そうでなければ平穏を戻す事は出来ない。
なのだが、それが出来ないでいる。
「どこにいる……」
この呟きが全てを物語っている。
敵がどこにもいない。
見つけられない。
襲われた場所などから足跡を辿っていっても、敵にたどり着けない。
敵が襲ってきたと聞いて駆けつけても、既にもぬけの殻。
あちこちから出現情報がもたらされるが、それを聞いて出撃しても敵には当たらない。
そんな事が何度も繰り返されていた。
一度は奇跡を用いて敵の居場所を把握しようともした。
しかし、敵の姿をとらえる事が出来なかった。
報告を聞いて瞬間移動の奇跡を使って切り込みもした。
だが、その時には既に敵の姿はなかった。
とにもかくにも敵をとらえる事が出来ない。
その為、出撃が無駄に終わる事が多い。
そんな事が続いていくうちに、焦りが生まれていった。
何も成果をあげられない事による。
こんな事は、勇者になっていらい初めてである。
そして、そんな勇者を見て、民衆も首をかしげるようになる。
『勇者とあろう者が何をしてるのか?』
それはちょっとした疑問ではあった。
彼等の知る勇者の姿とは違う事による。
民衆の知る勇者とは、魔族を瞬時に殲滅し、窮地から救ってくれる存在である。
それがそうでない事に、彼等は不信感を抱きつつあった。
もとよりあった魔族による不安もあいまり、徐々に安心感を失っていく。
それが市街に不穏を生み出す事にもなっていった。




