162回 手当たり次第に 2
まさか、という状況ほど悲惨なものはない。
だいたいにおいて、何の準備もせず、警戒もせず、一方的に被害を受けるからだ。
魔族が押し入った領域は、そんな状態だった。
警告は出されていた。
しかし、まさかと誰もが思っていた。
対策らしい対策はなされてなかった。
攻撃を一方的に受け、抵抗も出来ないままに蹂躙されていく。
そんな事があちこちで起こった。
基本的には、これまでユキヒコ達が行ってきた事の繰り返しである。
警戒の薄い村を襲い、蹂躙していく。
女と物資は奪い、男と老人らは傷つけられていく。
それらを繰り返して被害を拡大させていく。
違いがあるとすれば参加人数である。
今まで以上の人数で広範囲にわたって行われる。
その為、魔族側の戦果、女神側の被害は加速度的に拡大していった。
村も町も等しく攻められ、壊滅させられていく。
それが各方面で行われる。
守ろうにも魔族の動きが早くて、後手に回ってしまう。
伝令などもほぼ確実に潰されてしまうので連絡手段がない。
魔術を用いた通信は生きているが、それを使える者が少なくて有効活用出来てない。
そんな状態なので連携など取りようもなかった。
そうした中で、かろうじて難を逃れる者もいる。
ごく一部、危険を感じて避難した者だ。
それらだけが助かった。
少なくともこの時点では。
だが、その数はあまりにも少ない。
また、そうした者達もこの先どうなるかは分からない。
身の安全が確実なものだとはとても言えない。
避難勧告に従って市街にやってきたとしても、その市街が安全とは限らない。
そこも魔族が攻め込んでくる可能性がある。
そうなったらもうどうしようもない。
それに、魔族が退散せねば、市街から出る事も出来ない。
とりあえず命は助かったが、根本的な部分の解決はなされてない。
誰もが不安を懐いていった。
この先どうなるのだろうと。
それでもまだ彼等は何とか気持ちを保つ事が出来ていた。
状況は最悪だが、希望もある。
既に勇者が出陣したという話は誰もが聞いている。
それが到着するまでの辛抱だと誰もが考えていた。
「今はつらいが、勇者が敵を打ち払ってくれる」
そう誰もが信じていた。
確信と言っても良い。
これまでの勇者の打ち立ててきた武勲と実績を考えれば当然である。
勇者の存在が心の支えになっていた。
多くの者達は平穏が戻るまで待とうと思う事が出来た。
しかし、現実はそんな簡単なものではない。
多くの者達の期待とは裏腹に、事態は混迷を極めていく事になる。




