156回 勇者と聖女、その対策 4
『知れば逃げ出すだろうけど、それは仕方ない。
頭数が減るのは痛いけど』
『じゃあ、なんで?』
『いきなり勇者とかに接触して混乱するよりマシだからだ』
事前情報が有るか無いか。
その違いは大きい。
事前に知る事で逃げ出す者も出てくるだろう。
だが、知ってるから唐突な出来事を回避出来る。
この辺りは兵隊をどう扱うかによって変わってくるだろう。
兵隊を信用しないならば、使い捨てにするならば、何も知らせないでいるのが良い。
下手に知って浮き足立つ事も無いから、危険な所に放り込む事が出来る。
そうやって捨て駒や囮にする事が可能だ。
無能な足手まといを扱うならば、これはこれで最善の手段だ。
問題だって当然ある。
こんな事をすれば、生き残った配下の者達が不信感を抱く。
次は自分がそうなるのではないかと。
そうなった場合…………というかまず間違いなくそうなると、指揮統制が面倒になる。
部下は常に上司や指揮官を疑うようになるからだ。
こいつらは何か隠してるんじゃないか。
次は自分達が使い潰されるのではないか。
……こういった考えを抱く。
不信感を抱く。
それは、利用される不快感とも言える。
こうやって生まれた不信感と不快感は増幅し、指示を出す者達への嫌悪になる。
造反や反乱にもつながる。
そうならないように、様々な手を使わねばならなくなる。
なだめすかしたり、持ち上げたり。
あるいは強圧的に出て従わせたり。
そうした手段が必要になってくる。
それはそれで面倒になってくる。
そんな事をするくらいならば、事前に知らせておいた方がマシだった。
それで逃げ出すならば逃げれば良い。
残った者でどうにかするまでである。
幸い、数が多い。
大半が逃げ去ったとしても、残る者もそれなりにいるだろう。
母数が大きいので、それでも相当な数がいる可能性がある。
それらを用いて適切な行動をするまでだ。
また、事前に知らせる事で怖じ気づく者がどれだけいるかを把握も出来る。
そうした者達には、逃げ出す前に後方作業に従事させれば良い。
戦場に出る事がないと分かれば、それなりの働きはするかもしれない。
それはそれで貴重な労働力になる。
特に現状は、輸送路の確保すらも大変になっている。
道路整備や架橋工事、防衛のための塹壕堀りに土嚢を積み上げての防壁作り。
それらをやってくれるならば、それはそれでありがたい。
その篩い分けに勇者接近の情報を使えば良い。
『────そういうわけだから、遠慮無く周りの奴に伝えてくれ』
『分かった。
神官殿への報告はそれからでいいんだな?』
『いや、俺からやっておく。
時間を置いてからするから、それまでに周りの連中に教えておいてくれ』
『分かった』
そう言ってグゴガ・ルは動き出す。
それを千里眼の能力で見ながら、これからの事を考えていく。




