155回 勇者と聖女、その対策 3
勇者と聖女と戦う。
何も英雄的な決断でそうするわけではない。
他に手段がないからそれを選ぶだけである。
本音で言えば、可能な限り避けたかった。
相手は強力な存在である。
やれば負ける可能性がある。
勝っても甚大な負傷をうけるだろう。
だから出来るだけやりたくなかった。
けど、そうも言っていられない。
他に対処出来る存在がいない。
また、避けて通る事も出来ないからだ。
どちらかと言えば、この避けられないというのが一番大きな理由である。
なぜなら、相手も既にユキヒコの存在に気付いてるからだ。
相手の聖女に、感知や探知の気配を察する者がいる。
偵察担当の聖女によるものだ。
直接的な戦闘能力はさほどではないが、偵察や索敵などに特化した奇跡を持っている。
これらのせいで、こちらからの探知などはほぼ確実に把握されてしまう。
ユキヒコの能力による偵察も、おそらく例外ではないだろう。
となれば、察知した勇者達が何らかの対策をしてくる可能性がある。
(もう始まってるようなもんだろうな)
会敵してないだけだ。
既に戦闘は始まっている。
ならば、次の動き方を考えねばならない。
勝利するためにどうすればいいのか。
どうやって戦うのか。
あるいは敵を翻弄するのか。
最終的に敵を倒すにしても、その為に何をするのか。
(どうしたもんかな)
悩みながら考えていく。
そうしてる間にも時間は過ぎていく。
敵も何らかの動きを見せるだろう。
その前に何かしておかねばならない。
(とりあえず……)
何をするにしても、するべき事はしておかねばならない。
持ってる能力を働かせ、それを為していく。
『……グゴガ・ル、グゴカ・ル。
聞こえるか?』
超能力を起動し、遠く離れた所にいるゴブリンに語りかける。
それに気付いた相手も、
『ああ、聞こえる。
何かあったのか?』
すぐさま返事をよこす。
このあたり、これまで何度もやってきた事なので相手の対応も早い。
そんなゴブリンにユキヒコは、手にした情報と現在の状況を伝えていく。
『実はな……』
勇者と聖女の事。
それらが既にこちらに気付いてるだろう事。
それを伝えていく。
『分かった。
それで、俺はどうすればいい?』
状況を理解し、やるべき事を尋ねてくる。
このあたりの反応の早さがありがたい。
『とりあえず、この事を邪神官とイビルエルフ達に伝えて欲しい。
他の連中にもな。
何も知らないわけにはいかないだろう』
『分かった。
けど、良いのか?
悪党共が近づいてるのが知れ渡れば逃げ出す者も出てくるぞ』
ゴブリンらしからぬ聡さでそう尋ねてくる。
その懸念はもっともである。
魔族からすれば最悪の敵である勇者と聖女。
それがやって来る事を聞けば、逃げ出す者も出て来るだろう。
だからこそ、これらの接近を報せない、というのがよくある対応になる。
知らねば逃げ出そうとする者も出てこないからだ。
だが、ユキヒコはそれを否定した。
『いや、それは止めておこう』




