149回 勇者、立つ 4
勇者が出動する時点で、事態は既に手遅れになってる事がある。
これは、対処しきれない程の大事が起こってから出動要請が出るからだ。
その為、問題を未然に防ぐ事が出来ない事が多い。
やむをえない事ではあるが、それが彼等を心苦しくさせていく。
事前に何とか出来れば、もっとどうにかなったのではないかと。
それがなかなか出来ない事も分かってはいるのだが。
教会に所属し、基本的には出動要請を待つのが勇者の仕事でもある。
何かあった場合に対処する為である。
その為、行動がどうしても後手にまわってしまう。
それならば、独自に行動し魔族に切り込むことが出来れば、と考える者もいる。
しかし、そうやって勇者がいない状態が続くと、何かあった場合の対処が出来ない。
このため、やむなくであるが、勇者は連絡が取れる所で待機する事が求められていた。
これには奇跡の使用回数も関わってもいる。
勇者や聖女が発揮する巨大な力。
それらはほぼ全て女神イエルからもたらされる奇跡による。
この奇跡は、言ってしまえば使い切りの魔術のようなものだ。
効果は魔術をはるかに上回るが、一度使えば消費してしまう。
もう一度使うには、再び女神から授からねばならない。
しかし、そう簡単に授かれるようなものでもない。
巨大な力を持つ女神イエルであるが、それも無尽蔵というわけではない。
崇拝という形で人々から気力を捧げられて力を得ている。
その為、信徒の数がそのまま力になっている。
これによって得られる力は大きいのは確かだ。
だが、その力は基本的に様々な恵みに用いられていく。
天候を安定させて豊作ももたらすとかだ。
また、害獣や害虫を発生させない、寄せ付けないといった事もなされる。
数多くの信徒を養い守る事を考えれば、まずはそちらを優先せねばならない。
今は魔族との戦いがあるので、戦闘を有利にする奇跡も授けてはいる。
しかし、それはあくまで本旨ではない。
このため、勇者や聖女に授けられる奇跡は、基本的に限られてしまう。
ある程度定期的に必要な奇跡はもたらされるが、それらを考え無しに使う事は出来ない。
使ってしまえば補充されるまで待たねばならないし、それまでには時間がかかる。
勇者が積極的に活動しにくいのは、ここにも理由がある。
その結果、勇者はいざという時の為の切り札。
最終決戦の為の手段のように扱われている。
そう頻繁にあちこち出回るわけにはいかない。
積極的に行動する者達もいないではないが、それは少数に限られている。
ほとんどが要請が来るまで所定の場所で待機する事になっていた。
それが多くの勇者や聖女に苛立ちをもたらす事にもなっていた。
彼等とて手をこまねいていたいわけではない。
何かが起こるまで、つまりは被害が拡大するまで放置したいわけではない。
しかし、迂闊に動くわけにはいかない事も分かっている。
だからこそ、彼等は出動要請がもたらされる度に悲痛な思いを抱く事になる。




