147回 勇者、立つ 2
それでも人々は自分に出来る事をしようとしていく。
敵が来るなら迎撃態勢をとらねばならない。
その為の準備をしていく。
防御に必要な設備をととのえたり、出来る限りの備蓄を始めたり。
それがどこまで効果があるのか分からないが、蹂躙を受けないように出来る事をしていこうとしていた。
領主もそれは同じである。
流れ込んで来た者達から敵の行動を聞き出していく。
それをもとに対策をたて、実行出来るものからこなしていく。
真っ先に必要なのは、領内の村や町から人を避難させること。
魔族は小さな村から狙ってくる。
ならば、狙われる前に避難させていく。
そして市街に避難させる。
こうしておけば、これ以上の被害者を出さないで済む。
ただ、既に襲われてる村や町もあり、無傷というわけにはいかなかった。
そういった村や町にいた者達も市街で保護をしていく。
しかし、既に傷つけられた者達なので、扱いが大変だった。
治るあてもないので、どうしても負担になる。
それを狙っての所業なのが分かるだけに腹も立つ。
だが、どれ程憤ろうとも起こってしまった結果は覆らない。
それこそ奇跡が起こる事を願って、体をまともに動かせない者達を保護していくしかなかった。
市街を治める領主は、この状況をすぐに報告。
効果的な対応を求めていった。
その上司にあたり、日本でいうならば市町村の首長にあたる領主は、事態の重さを即座に見て取った。
とても自分の権限程度ではどうにもならないと。
なので、更に上の都道府県知事にあたる領主に報告、対策を求めていった。
知事にあたる領主も、状況のあまりの酷さを察した。
戦いがむごいものであるのは重々承知してはいた。
だが、今回は今までにない程の悲惨さをもたらしている。
そんな事をしでかす敵にかすかな恐怖と、それを覆い尽くすほどの怒りを感じた。
即座に彼は権限の許す範囲で最大の対策をとっていった。
兵力の派遣、物資の手当、治療が出来る神官の募集を行っていく。
また、今回の事態が普通でない事を鑑み、更に上位の貴族、更には中央への報告も行っていった。
加えて、事態がこのまま悪化するのを恐れ、最大の戦力を投入する事を決める。
その為の要請を教会に行っていく。
治療の為の神官集めとは別に行われた要請。
それは目的の人物の所に届き、その返事を待つこととなった。
受け取った者は躊躇う事なく要請を受諾。
即座に行動に移ると返事をする。
それを受け取った領主は心の底から安堵した。
これでこの状況は解決するだろうと。
その事はすぐさまあちこちに伝えられた。
その話は瞬く間にひろまっていった。
城下に、近隣の集落に。
そして、最前線の市街に。
それを聞いた者達は、誰もが一様に胸をなで下ろしていった。
これで救われる、これでこの最悪な状態が終わると。
まだ解決されてるわけでもないのに、既に事が終わったかのように受け取っていた。
それも当然だろう。
彼等が受け取った報せは、そう考えさせるに充分な内容だったのだから。
────勇者、立つ
それが領主が要請した事だった。
この地方にいる勇者への出動要請。
それが受諾されたのだ。
それらは増援と共に到着する予定であるという。
「やったぞ!」
「これであいつらもおしまいだ」
「勇者と聖女万歳!」
そんな声があちこちから上がっていく。
それ程彼等は勇者と聖女という存在を信じていた。
そうなるだけの実績があるからだ。
今回もそれは同じだろうと、誰もが考えていた。
何の根拠もなく。




