146回 勇者、立つ
辺境の市街陥落。
その報せは即座に各所に通達されていく。
瞬時に厳戒態勢がしかれていく。
また、流れ着いた者達の治療をするべく、神官や魔術師が集められていく。
とはいえ、既に魔術師でどうにかなるような段階ではない。
神官の奇跡を使わねばならなず、それが対策にあたる者達を悩ませる事になった。
人道的見地からも、今後の労働力確保の為にも、怪我人を治したほうがいい。
それは分かっている。
しかし、一度に何千という人間を治すとなると、かなりの奇跡を使わねばならない。
そうなると、いざという時の対処が難しくなる。
今後を考えると、出来る限り奇跡は温存したい。
だが、目の前にいる者達を放置しても良いのか。
その事で誰もが悩む事になった。
また、何よりも問題なのは、一度に何千という人間を抱えた事である。
その分の食料の確保がままならない。
急遽あちこちから集めるが、それでも全然足りないのだ。
逃げてきた者達を食わせるだけで、備蓄が食いつぶされていく。
それは備蓄管理をする者達を悩ませる事になる。
何より、手足と目の片方を潰された者達の姿は大きな恐怖をもたらした。
敵はここまでするのかと。
そんな者達が間近に迫っていると。
それを見た者達の中には、すぐにそこから逃げ出す者もあらわれた。
特に行商人などは、可能な限り早くそこから出立していく。
移動出来る者達は即座に行動にうつしていった。
もっとも、大半の人間はそうもいかない。
この世界の人間は、生まれ育った所で人生を終えるのが大半だ。
当然ながら、出身地の外に伝手がある者はほとんどいない。
親戚なども同じ村や町のなか、せいぜい近隣の町や村にいるのがせいぜいだ。
そんな彼等に、ここを出ていっても頼るあてなどない。
それが多くの者達の足をこの場に留めさせていた。
また、外での生活の仕方も分からない。
生まれ育った場所で、親から代々引き継ぐ仕事しか知らない者達ばかりだ。
そんな者達が別の場所で別の仕事、違う生き方など出来るものではない。
そもそも、そんな人生がある事すら想像出来ない。
なので誰もが恐怖をおぼえつつも、ここから逃げる事が出来ないでいた。




