145回 市街攻略 4
50人の第三波、本命の部隊は迅速に行動していく。
まず、魔術師が風を動かして音を遮断する。
これにより、相手に気取られないようにした。
そうしてから、獣人が身軽さを利用して堀を乗り越えていく。
そんな彼等の足場にするために、鬼人が持ってきた丸太を浮かべていく。
二つ以上の丸太を縛って作ったそれは、獣人の跳躍の足場になる。
堀を渡った獣人は、そのまま壁を走っていく。
身軽な彼等だから出来る事である。
そうして数メートルの壁をのぼりきった彼等は、持ってきたロープを下に投げる。
それを使って他の者達が一人ずつのぼってくる。
最初はやはり獣人から。
それから体の軽いイビルエルフ。
最後に体の大きな鬼人を、上にのぼった者達が総出で引き上げていく。
そうしてる間に巡回警備の者がやってくる。
しかし、それらは警戒していた獣人によって始末されていく。
そうなる前に警備してる者は敵襲を告げようとする。
しかし、音を消された状態ではそれも出来ない。
声の出ない口をそれでも大きく開くが、そうしながら獣人に倒されていく。
そうして内部に入った第三波50人は、市街の中心である領主の館へと向かっていく。
そこを制圧して中枢を破壊するために。
内部構造はユキヒコによってもたらされてるので迷う事はない。
一直線に目的地へと向かい、領主を含めた全てを制圧する。
それが彼等に与えられた任務だった。
その制圧は呆気ないものだった。
もとより兵力の大半は外壁に集まっている。
警護の人間もいるにはいたが、総勢数人。
50人になる潜入部隊の敵ではなかった。
領主を含めた者達は全員捕らえられる事になる。
可能な限り生きて捕らえるべきという指示があったからだ。
10倍の人数で挑んだのでそれはさほど難しくはなかった。
だが、無傷というわけにもいかなかった。
浅いものだが何人かは負傷をした。
だが、その程度で済んだと喜ぶべきであろう。
彼等は捕らえた敵を連れて外へと向かう。
手の空いてる者は防戦を入ってる敵を始末していく。
背後から魔術で眠らせたり、忍び寄って動きを封じたり。
門を開ける者もいる。
そこから内部に入った軍勢は、確実に市街を制圧していった。
何人かの死者を除き、敵のほとんどは生き残った。
生き残って、手足を片方ずつ潰されていった。
目も片方を潰されていった。
その措置に例外はなかった。
そして、教会の関係者を除いたほとんどが解放された。
武器や防具は取り上げられたが、とにかく生きて放逐されていく。
これまでそうしてきたように。
そうして市街から追い出された者達は、不自由な体で隣の領地へと逃げていく。
放逐された者達にそれ以外の選択肢はない。
その後ろを20人ほどの魔族がついていく。
余計な事をしないか監視するためだ。
獣人で構成されたそれらは、相手に気付かれないよう距離をおいている。
幸い見張ってる相手は、のろのろと動きながら隣の領地へと向かっていく。
まともに動かない体では、効果的な事は出来ないと分かってるのだ。
まずは隣の領地に行く。
そこで体を治し、対策を練る。
そのつもりでいた。
もっとも、彼等はそこにあまり期待を持てないでいた。
今回の敵の攻撃により流入してきた怪我人達。
それを相手に彼等は何も出来ずにいた。
怪我を治そうにも対象者が多くてどうにもならない。
奇跡を使えば何人かは完治させられはしただろう。
だが、それは使用回数が決まってる奥の手だ。
おいそれと使う事は出来ない。
神より授かる奇跡は、一度使えば再び授かるまでは使えない。
そして奇跡を授かるには一定期間の崇拝が必要になる。
大量にいる怪我人の治療をするのには適してない。
それこそ巨大な奇跡でもなければ、大多数の治療を行う事は出来ない。
怪我をなおす魔術も同じだ。
さほど深くはない傷ならともかく、潰された手足や目を復活させる事は出来ない。
そこまで強力な治療が出来る魔術師はそう多くはない。
当然ながらこの近隣にもいない。
彼等の体を治す手段は、事実上皆無と言って良かった。
それでも彼等は起死回生を願って進んでいく。
可能性はゼロに等しい程低いが、他にすがれるものも無い。
わずかな可能性に賭けて、今は進むしかなかった。




