140回 神への奉仕
聖女の館から声があがる。
女達が聖女として初のつとめを果たしながら。
勇者達が聖女に寄り添いながら。
様々な声があがる。
悲痛な、あるいは歓喜の。
それらがある程度続き、一段落をどうにか迎えた頃。
邪神官達が館に入ってきた。
聖女の館というのは、女達を収容してるから付けただけではない。
そこが教会であるよう示すために祭壇も設けられている。
聖女達はその祭壇が見えるように拘束されている。
その為、視線は嫌でもそちらに向かうようになっていた。
そんな彼女らの目に、すがるべき相手がうつった。
それは共に市街から脱出をしていた教会の者達だった。
司祭、神官、尼、聖戦士。
それらが拘束されながら連れてこられている。
抵抗はほとんどない。
それが出来ないほど痛めつけられていた。
地位や男女などの区別なく、全員酷い目にあっていた。
それを見て聖女達は全身から血の気を引かせていった。
同時に、かすかな希望すらも潰えていくのを感じた。
教会の関係者達は全身に傷を負っていた。
衣服は剥ぎ取られたようで、身を覆うものが無いからそれがよく分かる。
打撲のあとがそこかしこに見えた。
そのあおりか手足がおかしな方向に曲がってる者もいる。
というより、集中して手足を潰されたようであった。
指などは見たところ全て破壊されて使い物にならなくなっている。
そんな悲惨な姿とは裏腹に、出血などは驚くほど少ない。
内出血は避けられなかったが、流血はない。
それでも多少は滲んできてる部分もあるようだった。
そんなものを見せられたのだから誰もが息を飲み込んだ。
憐憫などよりも先に恐怖を催した。
下手な事をすれば自分もああなるのだろうと。
それを思って誰もが震えた。
そんな女達の前で、邪神官は祭壇の前に立つ。
傍らに鬼人や獣人などの従者を従えて。
いずれも教会の関係者を連れてきた者達だ。
それらが館の中にいる女達を見渡しながら告げる。
「これより奉納を行う」
その声に、新たにやってきた者達は疑問を抱く。
いったい何をするのかと。
そして、以前から居る者達は震え上がる。
これから何か起こるのかを知ってる故に。
そんな女達の反応をよそに、邪神官は奉納を始めていく。
祭壇に向かい、祈りの言葉を呟きながら。
そばにいた従者達が、その上につれてきた者をのせる。
最初に司祭を。
その司祭は痛みで身動きがとれない。
しかし何かを感じ取ったのか、恐怖に震えている。
「あ……ああ……う……ああ…………」
うめき声を上げながら窪んだ目を開き、何処ともない中空を見つめている。
その視線はさまよい、焦点はあってない。
なのだが、そこにある何かに怯えてるようでもあった。
それは邪神官の祈りが進むにつれ大きくなっていく。
「あああああああああ…………!」
怯えの声は悲鳴になり、腫れ上がった口から響いていく。
それは周囲にいた聖女達にも伝わっていく。
聖女達はそこで何が起こってるのかは分からなかった。
ただ、行われてる邪神官の祈りと、壇上にあげられた司祭の様子から察していく。
良くない何かが行われてるのだろう。
司祭の態度からそれが伝わってくる。
それが何であるかを、まだ何も知らない聖女達も目にする事になる。




