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14回 襲撃────戦後処理

 広場に様々な道具が用意されていく。

 まっすぐな長い杭。

 磔の為の台座。

 錆び付いた太く長い釘。

 どう見ても平穏とはほど遠い、物騒な器具が運び込まれてくる。



 それらを目にした義勇兵や一般職の者達は、一様に顔を青ざめさせていく。

 それもそうだろう、これらは処刑のために用いられてるものなのだから。

 彼らは実際にそれらが使われたところを見てきた。

 何が起ころうとしてるのかなど簡単に想像する事が出来る。



 こんなものが義勇兵の拠点にあるのにも理由がある。

 どうしたって出てくる不届き者の処分のためだ。

 人間が数百人も居れば何かと問題は発生する。

 まして教養もほとんど無いような連中が多い。

 そうした者達が悪さを起こすこともある。

 それが度を超えた場合、現場の判断で処罰・処刑がなされていく。



 罪人をわざわざ後送するなんて手間はかけない。

 そんな事をしてる余裕も無い。

 何より、他の者達にもしっかりと見せねばならない。

 馬鹿な事をしたらどうなるかをはっきりと示す必要がある。

 そうでもしないと問題を理解しない者達もそれなりにいるのだ。

 言って分かるような物わかりの良い人間だけではない。



 その為に使われてた器具が持ち出されてる。

 恐れおののくのも無理はない。

 そんな物を持ち出す理由など一つしかない。

 誰が誰にそれを使うのかなんて明白に過ぎる。

 何のためにそんなものを持ち出したのか、と訝る事すら無い。

 生きてる者達は続々と悲鳴を上げていった。



 そこに生き残りの男共が引きずられていく。

 彼らを生かしておいたのは、何も悲惨なものを見せて憤慨させる為だけではない。

 それも理由の一つであるが、理由はもっと単純だ。

 彼等を観客にする為ではなく、彼等こそ見せ物にするために。

 それだけの為に拠点につめていた男達は活かされていた。

 その事を彼らは身を以て知る事になる。



「じゃあ、やっちまってくれ」

 ユキヒコの声でゴブリン達が動き出す。

 男共を抱えて磔台へと運んでいく。

「何するんだ」

「はなせ!」

「やめろ!」

 口が開けていたら、そう叫んでいただろう。

 しかし、塞がれた口から漏れるのはくぐもった声だけ。

 涙を流しての絶叫があたりに届く。

 のたうち回っていた男共の叫び声は、生き残った仲間達の心をかきたてた。

 それを意に介す事もなく、ゴブリン達は作業を粛々と続けていく。



 縛り上げられ、身動きがとれない者達。

 その一人に最初の処理がなされていく。

 一旦手足がほどかれ、大の字に手足を広げられて固定される。

 それから、巨大な杭で股間から串刺しにされていった。

 生きたままそんな事をされた者は、苦しみながら死んでいった。



 それを見ていた者達は恐怖を更に増大させていく。

 しかし、これで死ねた者はまだしも幸せな方だったのかもしれない。

 体を貫通する苦痛はあっただろう。

 だが、心臓などの重要器官が破壊された事で、ほぼ即死出来たのだから。

 苦痛はその瞬間に終わる。



 他の者達はもっと悲惨だった。

 磔台に錆びた釘で四肢を釘付けにされて体を固定される。

 苦しみうめきながら台に掲げられ、そこから地獄が始まる。

 薄い刃を持つナイフを持ったゴブリンが近づいていく。

 それらによって磔にされた者達は、体をそこから薄く切り裂かれていった。



 肌から始まり、肉をそぎ取り、少しずつ少しずつ体が削られていく。

 苦痛は長引き、出血多量による死にも至れない。

 地獄の苦痛だけが延々と続く。

 串刺しにされて殺されるより残虐な殺され方であろう。



 そんな地獄のような処刑が行われる。

 生きて捕らえられていた女達はそれを呆然と見ていた。

 この時ばかりはゴブリン達も狂乱の宴を一旦お休みだ。

 ユキヒコの指示で、処刑風景を見せるよう通達されていたからだ。

 それに従い、男共に施されてる残虐な刑を見せている。

 効果は覿面で、泣き叫んでいた女共は声もなく処刑を見ていく。



「ああなりたいなら、好きなだけ抵抗しろ」

 恐怖で固まっていく。

 それらに処遇を宣告する。

「お前らが自分の思い通りに生きたいならそうしろ。

 それはお前らの自由だ。

 ただし、ああいう風にするからそのつもりでいろ」

 好きにしろと言いながら、その実態は真逆だ。

 逆らえばどうなるのかの実例を見せられて、それでも抵抗しようとする者はいない。



「嫌なら大人しくしてろ。

 そうすりゃ、死にはしない。

 あんな目にあう事もない」

 残虐な処刑をされる者達を見て、女共も悟る。

 悲惨すぎる出来事から目を背けたいが、そうしても現実は変わらない。

 受け入れてもう少し苦痛から遠ざかるか。

 意思を貫いて非業の死を遂げるか。

 どちらか一つしかない。

「好きな方を選べ。

 望んだ通りにしてやる」

 迷う余地などありはしなかった。



 答えは既に決まっている。

 串刺しにされて掲げられた者達。

 そして、今も苦痛の中でもがいてる者達。

 それを見て、抵抗を続けられるほどの意志を持ち合わせてる者は居ない。



 人としての尊厳や、国への忠誠、女神と教会への崇拝など意味を成さない。

 ただ死ねるのならば、それらに殉じる事も出来たかもしれない。

 だが、普通に死ねない。

 終わることなく続く、終わるまで続く苦痛の有様を見せられてしまった。

 それを見ても貫ける程の教示など持っていない。

 死ぬのも嫌だが、苦痛にまみれた死に方なんかされたくはなかった。

 例え醜くても無様でも生きていく事の方がまだ良い。

 少なくとも、

(あんなの……)

(絶対に……)

と思えるような苦しみ方はしたくなかった。

 それ程までに、男達に施される処刑方法は酷いものだった。



 大人しくなる女共。

 涙を流す者。

 呆然とする者。

 顔をしかめる者。

 反応はそれぞれだ。

 だが、抵抗の意思をなくした事は共通する。

 それを見てユキヒコは満足した。

 そして、

「おう、待たせたな。

 お楽しみを続けてくれ」

 待っていたゴブリン達に告げる。

 その声を聞いた途端にゴブリン達は、女共に襲いかかっていった。

 そして女共は、先ほどまでと違いそれに抵抗する事もなかった。



 これらは全てユキヒコの指示である。

 捕らえた連中を大人しくさせるための事だ。

 こういった連中は拷問にかけるだけで大人しくなるとは限らない。

 むしろ、反抗心を更に高める事もある。

 こういう奴は厄介になる。

 拘束しておけば動けないが、それでも脅威だ。

 妙な動きをしないか確認する必要が出てくるからだ。



 見せしめを作るのは、その対策だ。

 逆らったらどうなるかをしっかりと示してやる。

 そうすれば、たいていの者は大人しくなる。

 例え宗教が示す死後の楽園とやらを信じていても。



 死んでも報われると思えば、辛い現実も耐えられる。

 しかし、その苦痛がどんなものなのか知れば、たいていは尻込みする。

 人間、たいていはそこで地獄の苦痛よりも、まだしも楽な道を選ぶ。

 それを知ってなお逆らうなら、もうどうしようもないが。

 そんな殊勝な人間はそう多くは無い。



 人があえて苦痛や試練を選ぶのは、それが自分の許容範囲内である時だけだ。

 それを超えるような事態に好んで足を踏み込む事はない。

 今回見せた事は、そういった許容量を超えている。

 大半の義勇兵や一般職員にとって、受け入れられるようなものではない。

 なので、誰もがユキヒコとゴブリンに従っていった。

 ただ一人、例外を除いて。



「こんな事……」

 毅然とした声があがる。

 悲惨な処刑を見ながらも屈服しない例外がそこにいる。

「こんな事、許されると思ってるのか!」

 声はか細い。

 これはさすがに仕方ないだろう。

 惨劇を前にしたのだから。

 だが、震える声で、涙目になりながらも言うべき事を言おうとしてる。

 そこはさすがと賞賛するべきかもしれない。

 女神イエルに仕える神官としては。

 まだ生きてる女神官は、恐れおののきながらもまだ信徒としての勤めを果たそうとしていた。

 見る者が見れば崇高で高邁な精神の発露であろう。

 だが、ユキヒコには、哀れで滑稽な三流芝居に見えた。



 確かに仕える何かに、崇拝する何かを大事にするのは大事かもしれない。

 それが悪いとは一概に言えない。

 問題なのは、そうして従ってるものの善し悪しである。

 問題のあるものに仕えてるなら、それは間違ってると言うしか無いだろう。

 そして、ユキヒコは目の前の女神官がそうした間違いをおかしてるように見えてならなかった。



「神が、女神がこのような所行を見逃す事はない。

 必ず天罰神罰がくだる────」

 怯えつつも言葉を叩きつける女神官。

 そんな彼女にユキヒコは蹴りを入れる。

 威力を込めた一撃だ、

 女神官は派手に吹き飛び転がっていく。

 だが、女神官は決して怯まなかった。

 反撃は出来なかったが、ユキヒコを見る目は何一つ屈してない。

 そんな彼女をユキヒコは見つめる。

 呆れと蔑みの籠もった目で。

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