128回 市街はここまで追い込まれています
ユキヒコに狙われてる市街は悲惨な状況になっていた。
市街にいた者達と難民との間で衝突は常に発生している。
これだけで治安の悪化は避けられない。
加えて物資の入荷が無くなった。
外から商人や輸送隊が来ないのだから当然だろう。
食料の備蓄は枯渇してるところもある。
少なくとも個人の段階ではもう食べる物が無いという状況になってきていた。
ただ、全く無いというわけではない。
領主の館にはまだ残ってはいる。
それもそれなりの量が。
だが、これの放出を領主は躊躇っていた。
領主が蓄えてるのは戦時用の備蓄である。
籠城に備えたものだった。
なので、基本的に軍を養う為に存在している。
これを使ってしまったら、軍を、戦力を保持する事が出来ない。
その為、残ったそれなりの量の備蓄を使う事が出来ないでいた。
民を犠牲にしてまでそうする必要があるのか、とは考える。
領主として統治を考えないではない。
それは民から上がってくる税収を確保するためのものではある。
しかし、それが目的であっても、民の安寧が必要なのは論を待たない。
結局の所、統治者にとってもっとも理想的な状態は、民が憂うことなく日々を過ごす事である。
それがあるからこそ安定した生産が保たれ、税収になって成果があがってくるのだから。
しかし、今の状況はそれ以外の事も考えねばならない。
この地域は前線に近い。
近いと言うより前線そのものと言える。
その中では後方に位置してるというだけである。
敵の襲撃はほとんどなく、戦乱そのものに巻き込まれる事は少なかったが。
それでも敵の存在を考えずにはいられない。
そんな地域であるからこそ、軍という戦力を保持しなければならなかった。
もしここを突破されたら、更に後方、国内に敵の侵攻を許してしまうからである。
こういった事を考えるのも領主の仕事だった。
そこに敵がいる。
それは既に判明している。
ならばそれらへの襲撃を考えねばならない。
いずれ敵はやってくるのは明白なのだから。
そうであれば、敵に対抗出来る戦力の確保をせねばならない。
これを怠れば更に酷い結果になる。
もし、この地域が敵によって壊滅したらどうなるか?
既に述べたように、敵はより奥地に、国内の内側に侵攻してしまう。
そうなった場合の被害は甚大なものになる。
それを考えた場合、自領の領民数千人どころの損害では済まなくなる。
領主である、貴族であるという事から、こういった事まで考えねばならない。
国全体に関わる事をだ。
やむなき事と割り切り、領主は領民を切り捨てる事にした。
領主としては、ある意味失格であろう。
だが、国を担う貴族の一端として、より多くの国民を守らねばならない。
数千人と数千万の国民を天秤にかければ、どうしてもそうなる。




