126回 まずは敵を混乱させねばならない 4
「便利なもんだな」
制圧した町を見渡してグゴガ・ルが呟く。
実際に町に侵入する際に彼等は全く手間がかからなかった。
一度中に入ったユキヒコが内部から門を開いたからだ。
だが、それを為したユキヒコも驚いていた。
「まさかここまで上手くいくとは思ってなかったよ」
実際、ユキヒコのやった事はそれなりに驚くような事だっただろう。
門番の意識を操作して、内部に入った事。
それから町の警備をあずかる者の所まで出向き、その精神を操作した事。
当然ながら、そこに出向くまでにいた様々な者達の意識にも介入している。
そのほとんどは彼等にユキヒコが味方であり、それなりの権限をもってると誤解させる程度であったが。
それでも効果は絶大だった。
その調子で門まで出向き、その操作を任されてる者達の意識を操作した。
彼等はユキヒコが示した白紙を命令書だと誤認し、門を開いていった。
時間は既に夜中であり、こんな時間に開くなど本来はあり得ないにも関わらずだ。
それでも彼等はそう指示されたのだからと思い込んで門を開いていった。
ゴブリン達はそこから町の中に入り、制圧を開始していった。
そうなる前にユキヒコは門番を倒して腱を切っておいた。
そうされる彼等は、自分が傷つく直前までそれを問題だとは思いもしなかった。
さすがに痛みを感じた瞬間に思考の操作は解けたが、そうなってからではもう襲い。
先に手足を縛られてたのもあって、抵抗も出来ずに捕らえられていった。
「なぜ今まで使わなかった」
あっさりと町が制圧されたのを見て、グゴガ・ルはそんな疑問を抱いた。
これだけの力が使えるならば、もっと楽に攻略が出来てただろう。
それなのにユキヒコはこの力をほとんど使ってなかった。
おかしいと思うのも当然だろう。
その問いかけにユキヒコは肩をすくめる。
「どこまで効果があるのか分からなかったからな」
能力に目覚めて間もないのもあり、効果がどれだけなのかはっきりしなかった。
志願者を募って何度か試しはしたが、それでも実際にどこまで効くのかは分からない。
一応、村や町を襲った時にも試しはしたのだが。
それでも、ここまで大がかりに使うのは躊躇いもあった。
もし効果が無かったらと思うと、怖いものがあった。
今回、町の攻略で能力を使ったのは、多分に実験的な意味合いもあった。
「それに、俺がいなくても動けるようになってもらいたいかったし」
これも理由である。
仮に超感覚というか精神操作の能力に確たる力があったとしてもだ。
それに頼り切りになるような状況は作りたくなかった。
「それだと俺がいない所じゃ何も出来なくなるだろ」
なので余裕がある時にはユキヒコの能力を使わずに事を進めてもらいたかった。
それが出来るならば、作戦展開がしやすくなる。
これはゴブリン達だけではない。
鬼人・獣人・イビルエルフにも言えることだった。
こうした者達が無能という事は無い。
少なくともゴブリンを上回る能力はある。
人間に比べれば優れたところもある。
だが、それだけに慢心して隙が出来てしまう事もありえた。
また、数の上では主力のゴブリンを蔑ろにする傾向も見えた。
これは彼等が悪いと言うよりは、ゴブリンがそれだけ使えないというのも大きいだろう。
数に任せて突撃させるくらいしか用いようがなかったのだから。
しかし、ここにいるゴブリン達はそうではない。
経験を積み能力や技術を伸ばしている。
そんなゴブリンを上手く使う方法をおぼえてもらいたくもあった。
「だから、出来る事は自分でやってもらいたい」
「それもそうだが」
多少不服そうにグゴガ・ルが返事をする。
言いたい事は分かっても、手間が減るならその方が良いのだろう。
その気持ちは良く分かる。
「安心してくれ、任せっぱなしにするのは余裕がある時だけだ」
さすがに常に力を使わないというつもりはなかった。
損害が出るような状況なら、能力を使ってそれを抑えるつもりでいる。
貴重な戦力を減らすわけにはいかない。
「それじゃ、この調子で他の村と町も落としていこう」
「ああ、分かった」
「それが終わったら、一端戻る」
「戻る?
どこにだ?」
「隣の領地だ」
それはやって来た方向に戻るという事になる。
「撤退するのか?」
グゴガ・ルにはそう思えてしまった。
だがユキヒコは首を振る。
「まさか」
そんなつもりは全くなかった。
「そろそろ頃合いになるはずだからだよ」
「どういう事だ?」
グゴガ・ルには意味がさっぱり分からなかった。




