121回 そして勇者達は 2
「でも、本当に最近は大変みたいなんだよ」
馬鹿げたやりとりをひとしきりやった後、勇者は真顔でそう漏らす。
それを聞いた聖女達も顔を少し引き締めた。
彼等の耳に届く戦線の様子は決して良いものではない。
劣勢とまではいかないまでも、逼迫してるのではないかと思わせるものがあった。
「戦争だからな。
状況次第で押される事もあれば押し上げる事もある。
そんなの今更だろ」
「もし駄目なら私たちが支えれば良い」
戦士と魔術師の二人がそう言う。
戦ってる以上、どうしても不利な局面というのも出て来る。
それはやむを得ない事だ。
一方的なまでに有利な状況を作れたら話は別になるが。
今はそれほど大きな差を作れてるわけではない。
それが彼等にとっては辛いところだった。
「でも、最近ほころんでる場所が多くなってる気がしてな」
勇者の懸念はそれでも続く。
確証があるわけではない。
彼とて全ての戦線の状況を知ってるわけではないのだ。
それが分かるのは、全体の指揮を執ってる軍の上層部だろう。
それも最高司令部あたりの。
そうでなければ全体の戦況など知りようがない。
勇者であってもそれは同じだ。
彼等は教会に所属し、厳密に言えば軍に入ってるわけではないのだ。
そんな彼等が、どれ程強力とはいえ、軍の最重要機密に該当するような情報に触れられるわけがない。
分かるのは伝え聞く範囲の事だけである。
あとは、自分達の出撃回数や出撃場所くらい。
しかし、そんな事からでも何となく戦況というのは察する事が出来る。
「何があったんだか」
そう思うくらいには状況を懸念している。
楽観は出来なかった。
「まあ、それはこれから見に行けばいいって事だ」
偵察の聖女はそう言って勇者をなだめる。
「現地に行けば分かる事もあるだろうし。
その場にいる偉い人にでも聞けば詳しい事を教えてくれるかもしれないぞ」
「だったらいいけどね」
だが、それも手段の一つである。
前線司令官あたりだと、実際に肩を並べて戦ってくれる勇者を信頼してる者も多い。
遠くにいて命令だけしてくる上層部よりは頼りにしている。
その為、貴重な情報を教えてくれる事もある。
敵を撃退するのに必要だから提供してくれるというのもあるが、それ以上に上層部への不信感からによる場合もある。
現地の事をよく知らずに命令を出してくる者達への不満は結構根深い。
それもあって、実際に自分達を助けてくれる勇者達に好意的になる者も出てくるのだ。
偵察の聖女が言ってるのは、こういう者達から詳細が聞ける可能性についてである。
意外とこれらから重要な情報を貰える事もある。
それらはさすがに他言はしないでいる。
だが、そうでなくても耳に入る情報もある。
戦場に向かう仕事の関係で、様々な話が舞い込むからだ。
危うくなってる場所などは特に。
「あの地方とあの方面と。
割と大変みたいなんだよな」
「向こうの方も敵が攻めて来てるみたいだぞ」
「今度、あいつらが出発するっていうから、多分この辺りもな」
そんな風に敵が押し寄せてきてると思われるところをあげていく。
その数の多さに、勇者と聖女もだんだんうんざりしていく。
「……確かに多くなってるかもな」
「結構増えたよね」
敵の侵攻箇所がである。
それが出来るだけの戦力がやってきてるのだろう。
面倒な話である。




