110回 手を出せる所から
ユキヒコ達は一旦邪神官達と合流する事にした。
今後の展開について話合う必要があったからだ。
現状の確認の必要もある。
戦果や損失すらもはっきりとしてないのだ。
これらを含め、今の状態を把握しておく必要があった。
今後の事も、これが分からねばどうにもならない。
合流した邪神官やイビルエルフ達は少々硬い表情でユキヒコを迎えた。
それは他の部隊の指揮官達も同じだった。
鬼人、獣人、エルフなど。
様々な種族の隊長級がやってきたユキヒコに硬い顔を向けてくる。
拒絶はしてない。
しかし素直に歓迎する事も出来ない。
そんな調子だった。
「よくやってくれた」
まず、邪神官がそう声をかけた。
「おかげで敵を一掃する事が出来た。
今までよりはるかに簡単に」
「それは良かった」
「だが、ここから先はどうする。
残った町を攻略するとなれば、より大きな兵力が必要になる」
「そうだな」
確かにその通りだった。
この地域の中心である市街の規模は大きい。
攻略しようとしたらより大規模な兵力が必要になる。
「確かに上手くはいった」
「だが、これ以上は不可能だ」
「どうすんだ、ここからは」
隊長級の者達が口を開いていく。
彼等からすればそれが疑問や懸念になる。
ユキヒコの手引きでここまでこれた。
それは良い。
しかし、ここからどうするかが問題だった。
進むなら市街をどうにかするしかない。
しかし、兵力が足りないので攻略は難しい。
やってやれない事はないだろうが、その時には相応の損害を受ける事になるだろう。
そうなると損得計算が働いていく。
いくら戦争だからと言って、損失を全く考えないわけにはいかない。
戦いになるのだから死傷者が出るのは当然ではあってもだ。
損失は出来るだけ少なく。
戦果は可能な限り大きく。
これが求められる。
でなければ、仮に一度の戦いで勝利を得ても、その勝利を続ける事が出来ない。
次の戦いに突入出来るだけの余力がなければ、再度まみえた敵に負ける事になるからだ。
後先考えずに戦うというわけにはいかない。
勝利を勝利のまま確保するなら、少ない損害での勝利が必要不可欠になる。
そう考えると現状でこれ以上の侵攻は不可能となる。
確かに勝利を得てきたが、損失が全く無いわけではない。
現在残ってる兵力は1300ほど。
100は初期の段階で切り捨て、捨て駒に使った連中だ。
そして、それとは別の100は戦闘によって発生した死傷者だ。
この全てが死んだわけではない。
即座に戦線復帰が出来ない負傷者も含まれる。
しかし、戦力にならないという意味では両者に差はない。
手持ちの兵力は最初の頃より減っている。
これで市街の攻略をするのは無謀である。
それが分かってるから邪神官達の表情は硬くなっていた。
先に進みたいとは思う。
しかし、その為には力が足りない。
さりとて退くのもばからしい。
ここまでやってきたのに、どうして後退する必要があるのか。
……ここが邪神官達の懸念になっていた。
「────やる事は簡単だ」
彼等の考えを聞いたユキヒコは今後について口にしていく。
「まず、この場は放棄する」
「なに?」
「馬鹿な」
「何を」
それを聞いた誰もが驚いた。
同時にユキヒコの正気を疑った。
犠牲を出して手に入れたものを捨てるとはどういう事なのかと。
続いて出て来た言葉によって、それは更に大きくなる。
「俺達はこのまま隣の領域に向かう」
驚きは混乱にまで発展しそうになった。




