108回 町の中では 5
「やってるねえ」
町の様子を伺っていたユキヒコは笑うしかなかった。
遠視や透視を用いて覗く内部の様子は、予想していた以上の結果になっている。
「ありがたいね、潰し合ってくれると」
労せずして敵勢力を潰す事が出来る。
内部分裂というのは本当にありがたい。
「そんなに酷い事になってるのか?」
隣にいるグゴガ・ルが尋ねてくる。
満面の笑みでユキヒコは、
「凄いぞ!」
と答える。
「仲間だった連中で殺し合いや潰し合いをしてる。
仲を取り持つ奴も戦争に参加中だ。
現在、絶賛自滅中」
「なんとまあ……」
ゴブリンながらグゴガ・ルも呆れる。
仲間同士というかゴブリン内での諍いはグゴガ・ルも見てきた。
その度にこんな事してどうすんだと思っていた。
比べてみれば、戦ってる相手の統率の良さが際だってもいた。
戦ってる時の敵勢のまとまりの良さは羨ましいものがあった。
自分達に出来ない事を、何故あいつらは出来るのだと。
しかし、その敵が今は身内で殺し合いをしてるという。
「どうしてそうなったんだか」
疑問が浮かんでくる。
「無理をしたからだろうな」
ユキヒコは自分の考えを口にしていく。
「出来もしない事をやる。
だからどこかに問題が出てくる。
簡単に言うなら、そうなんじゃないかな」
「そうなのか?」
聞いてもグゴガ・ルにはどういう事か分からない。
そもそもとして、出来ない事とは何なのかが分からない。
頭の善し悪しの問題ではない。
土台となる知識や情報がないからだ。
数少ない情報から推測していくにしても、持ってる情報が少ないと時間がかかる。
確かにグゴガ・ルはそれ程優れた能力があるわけではない。
しかし、救いようもないほど劣ってるわけではない。
分からないから分からないのだ。
そんなグゴガ・ルにユキヒコは、
「そんなもんさ」
と答える。
「あんな状況なら、とにかく食料が必要になる」
いきなり人が増えたのだから、それに見合った食料が必要になる。
だが、そんなもの簡単に用意出来るわけがない。
「それなのに、切り捨てもせず、かといって他に移すでもなく。
あの場に留めていた。
そうなりゃ食料が足りなくなるのは当たり前だ」
「まあ、そうだな」
「なのに連中はやってきた連中を大事にして、食料を分け与えちまった。
そうなりゃ、手持ちが少なくなるのは当たり前だ」
その状態を続けていく事で、先々の不安が出て来る。
根拠のないものではない。
実際に手持ちが減ってるのだから、いずれやってくる未来の話になっていく。
「そうなりゃ、頭の回る奴は何かしら動き出す。
外に逃げるか、手元にあるものを守るか。
手元にないなら他から奪ってくるか。
いずれそうなる」
実際その通りになった。
無くてもどうなるものならこうはならなかっただろう。
しかし、手元に無ければ死ぬしかないほど重要なものだ。
減少や枯渇はそれだけで不安を呼び込む。
そして、自分が生き延びる為に様々な手段をとるようになる。
「それで今や殺し合いだ。
まさかここまで行くとは思わなかったけど」
ユキヒコとしては、相手の食料が減ってまともに動けなくなる事。
ついでに、互いに協力出来ないくらいに摩擦が生まれてくれれば良いと考えていた。
それ以上はさすがに期待はしてなかった。
なってくれればいいなとは思っていたが。
「こういう予想外は本当にありがたい」
期待してなかった分、想定以上の結果が出るのは大きな収穫である。
狙って出せるわけではないし、毎度毎度期待出来もしない。
だから得られた成果はしっかりと使っていきたいところだった。
「どうにか出来なかったのか?」
「出来たよ。
やろうと思えば」
「どうするんだ?」
「逃げてきた連中を殺すんだよ」
ユキヒコははっきりと言い切った。
「それか、町に入れない。
他所に送り出す」
現実問題として、それが一番穏便な手段になっただろう。
結果から見ればそう考える方が妥当ではあった。




