107回 町の中では 4
こうした中で混乱を加速させてる要因があった。
教会である。
彼等はその教義に従い難民の保護や救済に動いていた。
結果は芳しいものではない。
彼等も備蓄を放出し、どうにか問題を解決しようとしていた。
なのだが焼け石に水にしかならない。
市街にある教会はそこそこ大きい。
とはいえ備蓄の量は高が知れている。
国内最大規模の組織とはいえ、さすがに政府ほどに物資などを手にしているわけではないのだ。
最初は救済の為に奔走していた教会だが、早々にそれは破綻した。
それでも彼等は何とか平穏を保とうとしていた。
犯罪に走らないよう、決して人の道を踏み外さないよう説いてまわった。
効果があったかというとそんな事は無い。
一部、座して死ぬ事を覚悟した者はいたが、全員がそうなったわけではない。
より多くの者達は死後の極楽浄土よりも、生きてこの世に留まる事を選ぶものだ。
たとえ魔術や奇跡があるとはいえ、それでも死ぬ事への恐怖が無くなるわけではない。
死後の世界を見た事がない多くの人間にとって、死はやはり怖いものであった。
そんな死を甘んじて迎える事が出来るような人間は少数である。
それでも教会は市街と難民の間を動き回り、両者の行動を抑制しようと努めた。
双方争っても仕方が無い、そもそもこれは魔族が攻め込んだ事が理由なのだと。
敵は魔族であり、難民や市街の者達が敵対する理由は無いのだと。
その通りである。
原因は魔族であり、憎むべきはそこだろう。
しかし、現実に問題を起こしてるのは難民である。
その難民に襲われた者達は黙ってる事は出来なかった。
また、難民も自分達の食い扶持の確保という死活問題がある。
これが解消されないなら、盗んで奪ってでも食い扶持を得ねばならない。
生きる為に後先を考えてる場合ではなかった。
こんな状況で行動を慎むよう説得するのが無理がある。
生きていく為にと悪事に手を染める難民。
それへの報復として難民を襲う市街の者達。
更にそれから身を守るために迎撃する難民。
そんな難民を排除しようと動く市街の者達。
……こんな形で争乱は続いていく。
それでも教会はどうにか抑えようとする。
しかし、具体的に必要な措置を用意出来ないなら解決は出来ない。
解決手段が無いのに行動を抑制されれば、それへの不満が発生する。
『偉そうに言って、結局何もしないじゃないか』
という考えが出て来る。
そして教会は攻撃対象になっていった。
難民からも市街の者達からも。
説得にやってきた神官達が襲われ、屍となってうち捨てられていく。
こんな事が起こり、教会は聖戦団を動かす羽目になった。
そして、武装集団を動かした事で余計に怒りを買う羽目になる。
かくて市街は、難民・市街の者達・教会の三つの勢力がぶつかり合う状態になっていった。
これらをどうにか沈静しようと領主の配下も加わり、混乱は更に拡大していった。




