106回 町の中では 3
領主を始めとした統治者達はどうにかしようとした。
とにかく当面の食料、それだけでも確保出来れば状況は改善する。
それは誰もが考えていた。
市街の者も難民も、等しく求めてるのは当面の食い扶持だった。
言い換えれば、これから先も生きていけるという確証だった。
それを端的にあらわすのは、しっかりと蓄えられた食料である。
領主とその配下もこれくらいは分かってる。
なので、難民がやってきた当初は倉を開いて食料を分配していった。
もちろんそれだけで足りるとは思ってもいない。
備蓄だけで全てが賄えるわけがない。
足りない分は外から調達するべく手を打っていった。
まずは商人に呼びかけ、少しでも多くの食料を持ち込むよう依頼をした。
その為の金も当然支払うとして。
商人もこれに応えて動いていった。
町から出て隣の領地に向かった。
食料などを買い付ける為だ。
しかし、彼等が戻ってくる事はなかった。
商人だけではない。
より上位の領主や政府機関にかけあい、物資の分配を求めた。
手持ちの資金での買い付けに限界があったからだ。
その為、国庫などからの補助を求めたのだ。
戦争により物資不足が慢性化してるので、どれだけ引き出せるか分からなかったが。
それでも頼むだけ頼もうと使者を出した。
しかし、その返事も無いまま時間が過ぎていく。
あると思っていたものが無いと人は不安を懐く。
まして、状況が状況だ。
何かが起こってると思ってもおかしくない。
この事は誰もが等しく感じていた。
何より、実際に被害を受けていた者達はより深刻に事態を受け止めていた。
「同じだ」
難民の誰かが口にした。
その事が次々に伝播していく。
「村が襲われた時と同じだ」
「町がやられた時も」
「あの時も、外から誰も来なくなった。
外に行った奴も戻ってこなかった」
「まさか、またゴブリン共が?」
「まさか、そんな……」
「いや、そうなんじゃないか、これも」
そんな事が難民の中で噂になっていった。
この事を彼等も市街の者達に伝えようとした。
まだ何人か残っていた心ある者達がだ。
しかし、それは彼等自身の手で塞いでしまっていた。
「さっさと帰れ」
事を伝えようとした有志は、難民達と市街の間に立つ警備の者に追い返された。
当然だろう。
難民による市街における犯罪や暴動が起こった後である。
簡単に難民を市街に迎えるわけがない。
その態度が硬いとしても、無理はないだろう。
例え何も問題を起こしてない者達が掛け合ってもだ。
警備をする者達からすれば、そして市街の者達から見れば一人一人の見分けなどつけられないのだ。
誰が問題を起こす者で、誰が心ある者なのかなど分かる訳がない。
このため、危険を伝えようとした者達の意見はなかなか市街の者達に通じない。
せめて警備の者達にだけでもと彼等に意見を伝える。
かつて自分達に何があったのかを。
それと同じ事が市街でも起こってると。
だが、警備の者達がまともにとりあう事は無かった。
彼等からすれば、それを口実に市街に取り入ろうとする言いくるめの類に聞こえていた。
実際、こうした手段で市街に入り問題を起こした者もいる。
警備の者の態度も間違ってるとは言えなかった。
こうして情報が伝わるべき所に伝わる事もなく。
時間だけが過ぎていく事になる。




