105回 町の中では 2
今までのように行動出来ない。
しかし、食っていかねばならない。
そうなった時に人が取る道に何があるだろう。
それでも非道に走らず人としての尊厳と矜恃を持っていられるだろうか。
それを選ぶ者もいるにはいるだろう。
しかし、当面の食い扶持を得るまで時間がかかるとなれば。
その手段が非道なものであったならば。
人はその時どうするだろうか。
この選択肢を町に流れ込んだ者達は嫌でも選ぶ事になった。
とりあえず、町についた時点では多少の食い扶持にはありつけた。
しかし、それもいつまでも続くというわけでない。
ならばその分は働こうとしても、それもままならない。
人によって進む道は違うだろう。
それでも出来る事をしようとする者。
諦めて最後を覚悟する者。
それと、やむなしと割り切って踏み越える者。
そもそも何の躊躇いもなく踏み切ってしまえる者。
それらが市街にてはっきりしていった。
最初は盗みから始まった。
小さな所からだった。
コップやスプーンといった小さなもの。
また、それに同じくらいに他愛のないもの。
それらが様々な所から失せるようになった。
それからパンや肉の一切れ。
それらが姿を消すようになった。
家の外で吊して乾燥させていたものが狙われた。
それが頻発するようになって、人は家の外で物を吊さなくなった。
そうなると人が出払った家に盗みに入る者が出てきた。
中には強盗、さらには暴行事件も発生した。
当然捜査はされた。
犯人はあっさりと見つかった。
町や村から流れ込んで来た者達。
その中の者達の一部が強盗や殺人などの事件を行っていた。
まともに動かない体をどうにか動かして。
当然ながら市街の者達は激怒した。
そして恐怖した。
当然ながら警戒していった。
市街に元々住んでいた者達と、どうにか逃げてきた難民とで摩擦が発生した。
摩擦は小さな衝突を次々に生み出していった。
それらが暴動の激突になるまで時間はさほどかからなかった。
それで難民達の生活が少しでも向上したかというと、そうでもない。
盗んで奪ってこれるものは少なく、奪ってくれば今度は持ち帰ったものの奪い合いになった。
難民の中でも強かな連中、非道を躊躇いなく行える者、やむを得ないと理由を付けて何でもする者。
そういう者だけが生き残っていくのだから当然だろう。
そうでない者達は飢え死にするか、持ってる者を奪われて殺されていく。
生き残るのは心優しき者ではない。
心ない者だけがふるいにかけられて残っていく。
こうして市街は地獄絵図の様相を呈していった。
誰もどうにも出来ずにいた。




