104回 町の中では
話を終えたユキヒコと邪神官は即座に行動を開始していく。
今は一分一秒が大事である。
迷ってタタラを踏んでる余裕などない。
間違った方向に進んでるにしても、それでも先に向かっていかねばならなかった。
動きを開始したゴブリン達は、まだ無事だった町や村を襲っていく。
次々に制圧されるそれらは、略奪の限りを尽くされていく。
物資と女は奪われ、男と老人は傷を付けられて解放される。
行く先は当然より大きな町、そして市街である。
既にそこにはこれまで襲われた町村の者達が集っている。
そこに新たな者達が加わる形だ。
総数は2000にも3000にもなった。
近隣の町村が全て壊滅したのだ。
その結果出て来た難民なのだから、これくらいの数にはなる。
これらを収容するだけでも大変な労力になった。
何せ、この地域の中心となる市街は人口4000人。
この近隣では大きな町だが、その半数以上にもなる難民を受け入れる場所はない。
やむなく町の外に掘っ立て小屋を建て、何とか人を受け入れていった。
とはいえこれだけで終わる訳がない。
人がいれば食べる物が必要になる。
その確保に大わらわになっていく。
「とにかく食料だ」
「それと水だな」
「排泄も忘れるな。
ゴミも出るぞ」
「あと、襲ってくる敵への備えもどうにかせんと」
「だが、どうやってやる?
物も金もないぞ」
「人はいるが……」
流れて来た者達は全員傷を負ってる。
それも腱を切られてる。
まともに働く事は期待できんぞ」
「やれる事はやってもらうしかあるまい。
魔術師や教会に頼んで、怪我を癒すよう頼むしかない」
「それが、時間がたってふさがった傷はなおしようがないとか」
「教会も、女神の奇跡を用いればどうにかなるだろうが、奇跡を簡単に使う事は出来ないと」
「どうにもならんな」
こんな会話が領主を中心とした統治側で連日連夜繰り返されていく。
下々も同じようなものである。
いきなり流れ込んで来た者達をどうするかで揉めている。
見捨てるわけにはいかない。
しかし、受け入れる余地は無い。
なまじ生活圏が同じだけに、問題意識の高さは統治側以上である。
何せ、すぐ隣に流れ込んで来た者達がいるのだ。
その対処におわれる。
その境遇に同情はするが、さりとて救いの手をさしのべる余裕は無い。
だからこそ出て来る悩みだった。
難民達も生きていく為には食っていくものがないとどうにもならない。
しかし、それを手に入れる術が無い。
最初の一日二日はそれでも誰かが手持ちを分けていく。
しかし、それが長く続けられるわけがない。
どの家も自分の食い扶持を確保するだけで精一杯なのだ。
余計な負担を抱える事が出来るほど裕福ではない。
やりたくても出来ない者がほとんど全てであった。
そして流れ着いた者達は限界にとっくに達していた。
生き延びたは良いが、あらゆる者を奪われてきた。
住処を奪われ、蓄えを奪われた。
例外なく母を、姉妹を、娘を、恋人を、妻を奪われている。
自らは癒えることのない傷を刻まれた。
片手片足は無事だが、もう片方は腱が切られてる。
それも利き腕が潰されているのでまともに活動する事も出来ない。
時間をかければある程度動く事は出来るだろう。
それでもかつてのようには動けない。
そんな彼等がまともに生活を立てていけるわけもなかった。
そして、切羽詰まった者達がとる行動はだいたいが同じようなものとなる。
そのうち市街の中で盗みや暴行が発生するようになった。




