103回 こちらの動きを気取られないうちに 2
町に留めていた住人達。
それらを解放して市街へと向かわせる。
この近隣の中心地で、領主がいる町だ。
そこに向けて合計数百人の人間が歩き出していった。
手足の腱が切られてるので動きは遅い。
問題無く進んでいっても、二日三日はかかってしまうだろう。
食料も水も持たされずに歩き出す彼等は、絶望的な行程を苦労しながら歩かねばならなかった。
それでも振り返らずに進んでいくのは、少しでも早くゴブリン達魔族から逃れようとしてる為である。
住み慣れた住処に未練はあったが、そこを奪った脅威と長く一緒にいたいわけはない。
安全な場所を求めて彼等はゆっくりと歩いていく。
それを見届けたところで、ユキヒコ達も動き出す。
もう町に留まる必要が無い。
門を破壊し、壁も何カ所か崩壊させた。
外部からの侵入は容易である。
取り戻されても再攻撃しやすくなっている。
そうしておいたならば、これ以上町に拘る必要はなかった。
それよりも次の行動である。
「というわけで、こっちは町の連中を市街に送り込んだ。
そっちもそうしてくれ」
『なるほど』
遠く離れた所にいる邪神官が返事をする。
新たに使えるようになった能力による伝心による会話だ。
相手の居場所が分かってるなら会話が可能だ。
そして、居場所も相手の気配を辿ったり、遠視や透視を使えば特定出来る。
おかげで遠く離れた邪神官と時間差がなく話しが出来ていた。
『それではこちらもそうしよう』
「すまない、頼む」
『気にするな。
元々、そういう作戦であっただろう』
「まあね」
そう、もともとの想定内ではある。
町や村をある程度潰したら、そこの住人を市街に送り込む。
これは元々想定されていた事だった。
ただ、相手の動きが思ったよりも早かったので、幾らか前倒しにしなくてはならない。
『こちらもすぐに動こう。
捕まえていた者達を市街に向かわせる』
「頼む。
それとな」
『なんだ?』
「あんたらには別の仕事も頼みたい」
取り急ぎ頼みたい事があった。
出来る限り早急に実現したい事が。
その事を伝えていく。
聞いてる邪神官は話を聞くにつれて顔を硬くしていく。
その様子がはっきりと伝わってくる。
声音だけでの事ではない。
今のユキヒコにはその様子がはっきりと見聞きできる。
雰囲気すらもしっかり把握出来る。
『難しいな』
「分かってる」
渋い声を出す邪神官にユキヒコは頷く。
簡単にいく事では無いのは分かっている。
「それでも言うだけ言ってくれ。
駄目でもともとだ。
上手くいけば儲けものってくらいに考えてる」
『それなら良いが』
邪神官もそれで少しは落ち着く事が出来たようだた。
「ま、タダでやってくれとはさすがに言わんよ」
『というと?』
「一応さしだすものくらいは用意するさ」
『何をだ?』
「俺達が制圧した地域」
躊躇いなくユキヒコは言い切った。




