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10回 襲撃────こんな状態になっても彼らは適切な選択が出来ない、そういう状況に味方が追い込んでいく

「どうなってる」

 拠点司令官の声が重い。

 その問いかけに答える者もまた同様。

「やはり、届いてません」

「それは分かってる」

 司令官は話の焦点をただす。

「なぜ届かないのか。

 そこが問題だ」

「は、それは……」

 言いよどむ拠点の幹部達。

 しかし、理由ははっきりしてる。

 それを口にするのがためらわれるだけで。

 しかし、言わないわけにはいかない。

 それでは話が先に進まない。



「様子を見に行った者達も帰還してません。

 なので、正確な状況は不明です」

「それは仕方ない。

 だが、推測くらいはしてるだろ」

「はい、それはもちろん」

「なら、それを言え。

 でなければどうにもならん」

「はい……」

 そう促され、幹部はやむなく予想を口にする。

「敵が出没してるかと。

 それも大量に。

 この近隣に」

「やはり、そう思うか」

「まず間違いなくこれだろうと。

 でなければ説明がつきません」

 彼らも既にそれは分かっていた。

 認めたくないだけで。



 伝令も輸送も止まった拠点は孤立した。

 また、周囲を警戒している義勇兵の失踪も問題になっていた。

 その原因がなんであるのかは、もう察しがついている。

 事故でこのような事が起こるわけがない。

 誰かが意図的にやってると考えるのが妥当だ。

 となれば、そんな事をしでかす連中なぞ一つしかない。

「魔族か」

 拠点司令官のため息が重く吐き出される。



 状況は悪くなるばかりで、打開策はない。

 減っていく人数と食料を前に、不安が高まっていく。

 なのにこの状況を打開できない。

 それが出来る手段を拠点内の者達は持ち合わせていなかった。



 こんな状態になって一週間になる。

 その間に届くはずだった物資がこない。

 様子を見に行った者達も帰ってこない。

 これはおかしいとそれなりの編成の偵察隊も出したが、それもやはり帰ってこなかった。



 そこから状況を推測することは難しくは無い。

 どこかに潜伏してる敵が襲撃してるのだろうと。

 しかも、それなりに強力な兵力が来てる。

 でなければ義勇兵が簡単にやられるわけがない。

 相手がゴブリンならば、という条件付きだが、それが相手なら義勇兵で十分戦える。

 実際、今までがそうだった。

 よほど大勢で出向いてこない限りは、二倍三倍くらいの数の敵だって撃退していたのだ。

 それくらい戦闘力の差があった。



「しかし、そうでもなくなったようだな」

 結果からみて、拠点司令部はそう判断した。

「おそらく、より強力な部隊がやってきてる。

 おそらく人間や獣人、鬼人などが混じってるんだろう」

「ですな」

「妥当なところかと」

 幹部も同調していく。

 実際、そういった魔族側の異種族が出てこない限り負ける要素がない。

 彼らの常識ではそういう事になっている。

 それも間違いではない。

「となると、今後についてしっかり考えないといけなくなったな」

 司令官の言葉に、居合わせた幹部は全員頷いていった。



 彼らが魔族と呼んでる敵。

 その主力はゴブリンである。

 能力は低いが数が多い。

 その為、戦力の中では大きな比率を占めている。

 ただし、中核というわけではない。

 数による人海戦術はとれても、それ以外の能力は無い。

 そんなゴブリンが戦闘における中心になる事はない。

 魔族の戦力の中心は、別の種族が担っている。



 それは、魔族側の人間族であったり。

 イビルエルフと言える側から呼ばれるエルフの一派であったり。

 力に優れる鬼人、俊敏さが売りの獣人

 全てにおいて他の種族を上回る吸血族。

 そういった者達が戦力の中核で中心となっている。

 ゴブリンはこれらの盾になり、つゆ払いとして突撃させられる雑兵でしかない。

 そんなゴブリンなど、恐れる理由も必要もなかった。



 だから彼らは考えた。

 ここまで大きな被害が出たのは、ゴブリン以外の種族が出てきたからだろうと。

 そして、そんな奴らが出てくるという事は、魔族の侵攻方向にこの方面が選ばれたのだろうと。

 状況から推測して、彼らはそういった結論を出した。



「これは……」

「由々しき事態ですな」

「なんとしても連絡をとらねば」

「いや、そんな連中を相手にするんだ。

 我々がどうするかも決めておかねば」

 すべき事はすぐに出てくる。

 それがこの拠点の仕事だ。

 そして、彼らはそれを統括する立場にある。

 分からないわけがない。

 問題なのは、それを実行可能かどうかという部分になる。



 それなりの規模の偵察隊が戻ってこない。

 上手く逃げおおせてればいい。

 まだ生き残っていて、今も敵を避けながら活動してるなら。

 それならば戻ってくる可能性はある。

 機転を利かせて、この状況を後方に連絡してくれているかもしれない。

 そうであるならば、拠点幹部達の求めるところが実現されてる事になる。

 だが、そう楽観するわけにもいかない。



 偵察隊が壊滅していたなら、状況は非常に悪いものとなる。

 出した偵察隊は20人ほど。

 それが潰えたならば、敵も相当な数が展開してる事になる。

 連絡をとるにはそこを突破しないといけない。

 それはかなりの難題だった。



 かといって拠点に籠もってるわけにもいかない。

 単に防衛するだけならばその方が楽ではある。

 しかし、それでは情報を伝えるという目的が達成出来ない。

 何より、補給がこないのではいずれ干上がってしまう。

 この場合、頼みとするのは、後方から確認がくる事だ。

 連絡がつかない事をあやしんだ場合、そういった動きをする可能性はある。

 しかし、あくまで他人任せであり、本当に来るのかどうかはあやしい。

 どうしても不確定な部分が出てしまう。

 それも割と大きめな。



 いっそ、拠点を放棄して全員で移動をする、という事も考えられた。

 しかし、その場合拠点が占拠され、今後不利になっていく事になる。

 それはそれで避けねばならなかった。

 やはり、ある程度の人間は残し、そして連絡にそれなりの人数を割くべきだ、という事になっていく。

 しかし、どちらにどれくらい人を割り当てるのか?

 それでまたもめる事になる。



「通信が出来ればいいんだが」

 幹部の一人がぼそりと漏らす。

 その通りであった。

 この世界、機械的な通信器具があるわけではない。

 だが、魔術を用いた伝達手段はある。

 それを用いる事が出来れば、この状況を簡単に後方に伝えられる。



 しかし、それが出来る魔術師がいない。

 女神より奇跡と呼ばれる超常の力を授かってる神官もだ。

 また、通信用の魔術器具もない。

 それはより重要な場所で使われており、それほど重用でも無いこの拠点には置かれてない。

 このため、彼らは事の次第を伝える事が出来なかった。



「どうしたもんか」

 状況がどうなのかは彼らにも分かっている。

 何かしら行動にでなければとも思う。

 しかし、それを形にする事が出来ない。

 拠点を捨てて全員で突破を試みるか?

 それとも籠もって救助を待つか?



 それでもなんとか結論を出さねばならない。

 このまま放置しているわけにもいかないのだから。

 しかし、その結論を出す能力に彼らは欠けていた。

 会議は白熱するが、しかし進まない。

 そんな状態に陥っていた。



 問題なのは、とにかく数が減っている事だった。

 もともとこの拠点には150人ほどの義勇兵が貼り付けられていた。

 それらが、外への巡回と、拠点の防衛。

 そして休養中の三つの行程を順繰りに受け持っている。

 そのうち、外への巡回に出ていた者達が帰ってこない。

 これで30人ほどが減った。

 そして、拠点周辺に展開していた者達。

 監視所に籠もっていた者達を含め、これも40人ほどが消息を絶っている。

 更に、状況確認のために20人ほどの偵察隊を出して、これも未帰還。

 結果として、拠点にある戦力は60人にまで激減している。



 この他にも、司令部要員や生活面を担当する一般職の者もいる。

 これらを加えれば人数そのものはもう少し増える。

 しかしそれらは戦闘にたえられるものではない。

 司令部要員はともかく、一般職の者達は女も含まれている。

 さすがにそれらに戦闘を受け持たせるのは酷だ。



 この一般職の事を考慮すると、無理して突破というのが難しくなる。

 最悪の場合、彼らにも覚悟を決めてもらうしかないが。

 それでも、なるべく彼らの安全も確保したいというのが幹部の意向だった。

 また、他の義勇兵もそういった考えや思いを抱いてる者は多い。

 戦闘を専らとする者達の意地や意思といったものがそこにある。

 だが、現状を見れば、それもかなり難しい話だった。



 そんな事をしてる間に時間は経過していく。

 未帰還が目立ち始めてから二週間目に突入する。

 まだ食事などは出ているが、食料庫は空になりつつあった。

 さすがにここまで来ると、なんらかの手を打たねばならなくなる。



 幸い…………といって良いか分からないが。

 人数が減った分だけ消費は緩やかだ。

 それが少しだけ破滅を遅らせてくれる。

 その間に対処出来ればどうにかなる。

 問題はどうすれば良いのかが分からない事だった。



 司令官達はどうすればいいのか決めあぐねている。

 その為に、時間を無為に消費してしまっていた。

 そんな上層部に対して、下の者達も不審や不安を抱いていく。

 状況に対してどうするのか、という事は誰もが気にかけていた。

 そんな思いが様々な行動になってあらわれてくる。



 ある者は不安を不満に変えて暴れ出した。

 ある者は悲観して何もせずに座り込み続けた。

 ある者は拠点から脱走していった。

 そういった事があちこちで起こった。

 それをなだめようと司令官達は必死になったが、効果は無い。



 そして、こうなった時点で最前線の拠点は、機能を喪失していた。

 もはや任務を担える状態ではない。

 誰もが己の命を優先している。

 それが収拾の付かない事態を引き起こしている。



 こうなったら、もう回復は不可能と言える。

 いっそ、逃げ出した方がまだマシであろう。

 少なくとも、これ以上の損失は避けられる。

 司令官達もそう考えてはいた。



 だが、明確な理由もなく、またそういった指示も出されてない。

 そんな状態で下手に撤退をしたら問題になる。

 そこが問題だった。

 軍律や軍令、出されてる指示や命令。

 そういったものが邪魔をする。



 とはいえ、撤退が絶対に許されないというわけではない。

 状況次第では現場の指揮官の判断で可能だ。

 ただ、この状況が現場の判断が許される状況なのかが悩ましい。

 兵力が極端に減少してるのだから、充分に条件は満たしているのだが。

 問題なのは、それを判断するのが更に上位の司令部である事だ。



 義勇兵団も、だいたいにおいて司令部と現場での意識の乖離がある。

 これは組織においては往々にして発生する事だろう。

 そして、現状への対処よりも、体面や功績を考えるのも常である。

 そのせいか上層部というのは、撤退をことのほか嫌う。

 それは組織による査定や評価に大きな傷を付けるからだ。



 撤退するくらいなら、壊滅した方が良い────。

 そんな考えすら抱くようになる。

 そうなれば、名誉の戦死として評価が下がる事は無い。

 むしろ、そこまでよく戦ったと賞賛される事もある。

 実際には、部隊という戦力を壊滅させてるので、何一つ評価するべきではないのだが。

 だが、現実的な判断と、理性による計算では大きな差が発生する。



 撤退を選べば、多少は戦力を残す事は出来るだろう。

 しかしそれは、過酷な処分と対になる。

 良くて降格や左遷。

 除隊処分で終わればまだマシ。

 最悪、投獄や死刑もありえる。

 敵前逃亡を名目にして。

 その逃亡が無ければ、部隊が壊滅するというのに。

 それを名誉の戦死として扱おうとするのだから救いがない。

 なぜ損害を免れるための無駄な戦闘の回避が犯罪扱いになるのか?

 これが組織というものの不可解さと理不尽さというものだろう。



 こういった事情があるので、拠点の首脳陣は悩んでいた。

 進退窮まっていると言ってよい。

 現状で最善の選択。

 それは確実に彼らの身の破滅を引き寄せる。

 ならばどうすればいいのか?

 答えが出ずに時間だけを無駄にしていってしまう。

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