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夫婦で異世界にやってまいりました。(仮)  作者: ゆゆ
妻は元の世界に戻ってきました。
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01

ごうごうと、風の切るおとがする。そりゃそうだ、今まさに風を切っているのは自分自身で、凄いスピードで上から下へ落ちている。


普通は意識が飛ぶはずであるが、そこは何故か意識は飛ばないでただ無抵抗のまま落ちていくのを待つだけ。


「話せるし、抵抗もないし、目の前に広がるのは少なくとも日本ではない。これが噂の異世界召喚……ではなく、私、戻ってきましたね」


そう、私、リナリルは元々この世界の住人。

先ほどいた世界の人々の大多数が夢みる、剣と魔法の世界、アデン王国である。


私は元々この世界の住民で、とある悪意から逃げ延びるために別の世界に逃がされた。それがこうして呼び戻されたということは、この世界で何か起こっているに違いない。呼び戻したのが味方なのか敵なのかは分からないから、それも確かめないといけない。


「それにしても急だったわね。……夫にさよならも言えないなんて」


ごめんなさい、と段々と近づく世界を見ながら呟き、私はテレポートを唱えた。


※※※


「ここは……始まりの町ね」

テレポートをした先、降り立ったのは始まりの町と呼ばれる小さくはあるがそれなりに栄えている町だ。名前の通り、冒険者になるにはこの町のギルドで冒険者登録を行うことになる。勿論他の都市にもギルドはあるが、駆け出しの冒険者がこなせるクエストがある町がは始まりの町と呼ばれる場所にしかないのである。(ちなみにこの世界に始まりの町と呼ばれる場所は何ヵ所かある。)


「さて、あれから一体どれだけ時が進んでいるのかしら」

始まりの町にある施設では細かいことが分からないとは思うが、今日の日付ぐらいは分かるだろう。

そうなると冒険者ギルドに行ってクエストの掲示板をみたら早い。

町の人も親切な(悪く言えばお節介)人間が多いし、始まりの町は将来の英雄が産まれるかもしれない場所ということで、警備もしっかりしている。

宿も何軒もあるし、食堂もゴロツキはいない。質の悪い冒険者はたまにいるけども。

懐かしい雰囲気に思わずにやける。行き交う人々の腰には剣や、短剣が装備され、中には杖を持つ人もちらほら。


魔術師が少ないのは、小さい頃に必ず魔力の保持を確認し、魔力が確認された者は力を暴発させないために、学校に通わされる。才のないものや、魔術に興味がない者は魔力を封印され、一生を過ごす。学校を卒業したものは大半は国のお抱え魔術師となるため、給料も出来高である冒険者に登録しにくる魔術師は希少なのだ。

かといって、パーティに魔術師は欲しい。ランクが高い冒険者は、ダンジョンに向かう際にだけ、魔術師を雇う所もある。魔術師も鍛練はしないといけないので、国のお抱えは当番制でギルドを回しているのだ。昔とシステムが変わっていなければの話だが。


「里奈?」

私の名前はリナリルだが、「里奈」は前の世界の名前だ。勿論人違いの可能性もあるが、念のため振り向く。

そこには、思わず呟いてしまった、のだろう。慌てて口をおさえる青年が居た。


茶髪に、翡翠の瞳。軽装であるが、剣士だろうか。その体つきからはとても剣を大きく振るえそうにない。もともと整った顔立ちではあったが、向こうより美化されている。

一方で私は桃色のふわふわの髪に、空色の瞳だ。ここに居た時と変わっていなければ美少女である。現に視線は痛いほど感じほど。でも、向こうとは似ても似つかない風貌だし、年齢もお互いに変わっているはずだ。


「……頼ですの?」

「……!里奈、里奈、やっと見つけた!」

私が夫の名前を呼ぶと、ぱあ、と犬がしっぽを振るように喜び、駆け寄ってきた。そして、感極まったとばかりに抱き締められる。ぎゅうぎゅうと痛いのだが、この温もりすらも懐かしい。


「里奈も転生してたんだな!」

「ここではリナと。転生、したんですね」

「うん、ここではそのままライ、だよ!俺、リナが急に居なくなって寂しくて死んじゃったみたい」

「あらあら……」

つまり、私が召喚で呼び戻された後、頼は死んでこの世界に転生したということらしい。


「どこか、座って話そう」

「ええ、わかりました」

「……リナ、貴族に転生したの?」

「まあ、貴族ではないですが上の方に」

近くの食堂に場所を移した私たちは、現状を把握するために話し出した。


「俺は、ライ・タイム。どうやら剣術の血筋に転生したらしくて剣術を教わってたんだけど、魔力もあって魔法剣士に」

「まあ、転生チートということですね」

「そう言うこと。目立ちたくないから剣士として立ち回ってるよ。いずれは王宮に行かないといけないんだろうけど、家の家系は見聞の旅は必須だからさ。リナは?」

「それが……私、よく分かりませんの。家はもうありませんし」

「えっ?」

「没落貴族ってところでしょうか」

「じゃ、俺と一緒にギルドに登録して、旅にでよう」

「いえ、残念ながら私には新たに登録する資格はないのですよ」

「ええ……」

冒険者ギルドに登録するには、一定の能力がないといけない。実際は既に冒険者ギルドに登録されているので、新しく登録出来ないのだが、転生チートして楽しんでいる夫を巻き込むのは何だか可愛そうだ。それに経験値も吸ってしまうだろう。


「んじゃあ、同行者だな。俺にスキル全部来ちゃったのかな?リナを守るために」

「ですが、他のメンバーの方は……」

「ああ、同じ名家から来てる奴等だし、大丈夫だよ」

夫はゲームも上手いし、なんでもそつなくこなすが、少し頭が弱い。なにもできない御荷物をつれて歩くのはパーティとしても大変だろう。


「……まあ、途中ではずれたらいいか」

「ん?何か言った?」

「いいえ」

「じゃあ、この後落ち合うことになってるからさ!」

ニコニコと嬉しそうに笑みを向けられると、流石の私も断れなかった。

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