【悲報】“ママ活”してたら姉が来た。
──ボクは都内の駅前にて、“ママ”になってくれる人を待っていた。
もちろん、本当のお母さんのことじゃない。最近SNSで流行っている『ママ活』で釣り上げた女性のことだ。
「プロフィールには二十代とか書かれてたっけ……美人なお姉さんだといいんだけどなぁ」
コートのポッケに手を突っ込み、白い息を吐きながらぽつりと呟く。
お金を対価に若い男とデートするサービス……ママ活に手を出す女性は、なにもオバサンだけとは限らない。中には二十代中盤くらいの人も利用しているとのことだ。
まぁ、ボクはこれが初めてのママ活だから、実際のところはどうか知らないんだけど。
(最近金欠気味だったから、勢い任せで手を出しちゃったけど……うぅ、変な人が来たらどうしよう……!)
なんだか急に怖くなってきたなぁ。
そうして不安げに相手の女性を待っていた──その時、
「──あ、いたいた! 待たせちゃってごめんねっ!」
「っ!?」
可愛らしくてどこか艶やかな声が、ボクに向かってかけられた。
そちらのほうを振り向くと、そこにはふわふわとした栗毛のお姉さんがいて──
「……って、お姉ちゃんッ!?」
「あれっ、弟くんじゃーん! ……もしかして、わたしの相手になってくれる子ってキミだったの?」
……ボクは目の前が真っ暗になった。
つい出来心でママ活をしていたら、実の姉が来てしまったのだから……!
◆ ◇ ◆
「──ちょっ、恥ずかしいよ! 手ぇ放してよぉお姉ちゃん!」
「ダーメっ! それに、今はお姉ちゃんじゃなくて“ママ”でしょう?」
……あれから数分後、ボクたちは手をつなぎながら冬のビル街を歩いていた。
しかも何故だか恋人つなぎだ! おかげで通行人さんたちが、微笑ましげにこちらを見てくる……!
「うぅ、血の繋がったお姉ちゃんと恋人つなぎなんて恥ずかし過ぎるよ……!」
「だからママだって! もう、弟くんってばこんなことで真っ赤になっちゃって……かわいいなぁ」
そう言ってお姉ちゃんはボクのほうへとさらに身体を寄せてくる。
甘い匂いやとろけるような声が間近にまで迫り……そして何よりもムチムチな胸を時折押し付けてきて、もうボクの羞恥心は限界だったッ!
「お姉ちゃん……ほんとにやめてよぉ……!」
まさにからかわれ放題だったけど──だけどボクは抵抗できない。
もしもお姉ちゃんの言う事に逆らったら、ママ活していたことを親にバラすと脅されてしまっているのだ……!
「ふふっ、いい子にしてたら解放してあげるから大丈夫だって! だからまずは……お姉ちゃんのことをママって呼んでみようか?」
「……ママぁ」
「~~~~~~~~~っ!!! 本当に可愛いなぁ、もうっ!」
人通りの多い道の真っただ中だっていうのに、お姉ちゃんはボクをむぎゅーっと抱き締めてきた……!
あぁ……せめて通行人のみなさんには、ボクのことが女の子に見えますようにと……生まれついての女顔に初めて期待してみるのだった。
──それからもお姉ちゃんの攻撃は終わらなかった。
喫茶店に入ったらパフェを「あーん」されたり、服屋さんに寄ったら下着売り場に連れ込まれて、「これなんて似合うかなぁ?」と艶めかしい下着姿を見せつけられたり……!
そうしてカラオケ店に入った時には、ボクはもう完全にダウン状態だった。
「さーて、なに歌おうかなーと。……あれ、どうしちゃったのボクぅ? もうおねむの時間なのかなぁ?」
「ってその口調やめてよもうっ!!!」
思わず怒鳴り散らしてしまうが、お姉ちゃんは相変わらずボクのことをニヤニヤとした表情で見てくる。
ああ、こんなことになるんだったらママ活なんてしなければよかったっ!
「ふふふ……ボクちゃんってば、怒った顔も可愛いなぁ……! キミの可愛いところ、お姉ちゃんママにもっと見せて……!」
「っ、馬鹿にしてぇ!」
もう我慢の限界だったッ! ボクはお姉ちゃんの肩を掴むと、無理やり長椅子の上に押し倒して覆いかぶさる!
「きゃっ!? ちょ、弟くん……!?」
「お姉ちゃん、ボクだって男なんだよ! それなのにお姉ちゃんはいつもいつも、お風呂に入ってきたり、ベッドにまで潜り込んできたり……!」
溜め込んできた怒りが一気に噴出していく。今日もそうだったけど、お姉ちゃんはボクのことを男として見ていないからこそあんなに恥ずかしいことが平気で出来るんだ!
それに加えて……、
「……お姉ちゃん、ボクのことは弄んでばかりのくせに……ママ活なんていうのに手を出して、知らない男の人と遊ぼうとしてたんだね!」
ああ、そのことが何よりも許せない! ボクが言えたようなことじゃないけど、まさかお姉ちゃんがこんな援交まがいのサービスに手を出していたなんて思わなかった!
悔しくて、悲しくて、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちてくる……。
「うぅ、お姉ちゃん……なんで……!」
「弟くん……」
そんなボクに対して、お姉ちゃんは気遣うようにして優しく背中を撫でてきた。そして、意を決したような顔付きで告げる。
「ごめんね──実はわたし、今日のママ活の相手が弟くんだってわかってたの」
「えっ?」
それって、どういう……?
呆けるボクに対して、お姉ちゃんはバツの悪そうな笑みを浮かべる。
「あはは……実はお姉ちゃんね、たまーにキミのスマホを覗いちゃったりしてたんだ……。それでSNSを開いてみたら、裏アカウントを発見して……ママ活なんていうのを始めようとしてたから……」
「えっ、えええええええっ!? お姉ちゃんなにやってるんだよぉ!?」
今までそんなことをしてたのぉ!? じゃ、じゃあ本当にこれは偶然とかじゃなくて、全部お姉ちゃんに仕組まれてたイタズラだったってことぉ!?
そんなぁ……!
「お姉ちゃん……ひどいよぉ……!」
「ほ、本当にごめんね!? ……まぁとにかくそういうわけで、わたしは知らない男の人とデートなんてする女じゃないってこと、わかってくれた?」
渋々ながらもボクは頷いた。その点については確かに安心したけど、でも人のスマホをいじったりするなんて信じられないよ!
そうしてお姉ちゃんのことをジト目で見ていると、本当に申し訳なさそうな表情でボクの頬をそっと撫でてきた。
「ごめんね……でもお姉ちゃん、キミのことは何でも知っておきたかったの。
それに──わたしは弟くんのこと、本気で愛してるんだよ? 一緒にお風呂に入りたいって思うのも、一緒の布団で寝たいって思うのも、弟くんだけなんだから……!」
「なっ、おねえ、ちゃん……!?」
突然の告白に、心臓がドクンと高鳴った。
ああ、相手はお姉ちゃんなのに……血の繋がった家族なのに……こんな気持ちはダメなはずなのに……っ!
「ダメっ、ダメだよお姉ちゃん……! だってボクたち姉弟なんだよ!? それなのに、本気で愛してるだなんて……っ!」
「……弟くんはお姉ちゃんのこと、嫌いなの?」
「そんなわけないっ!」
……ダメだとわかっているのに、咄嗟にそう叫んでしまった。
ボクだって、お姉ちゃんのことは大好きだ。お姉ちゃんよりも美人な女の人は見たことがないし、甘い匂いもとろけるような声も、やわらかい胸も全部好きだ!
だけど、ああ……だけど……っ!
「ねぇ──弟くん」
葛藤するボクに対して、お姉ちゃんは押し倒された状態のまま優しい笑みを向けてくる。
そして、わずかに頬を赤らめながら言い放った。
「あのね……今日のわたしはお姉ちゃんじゃなくて、見ず知らずの『ママ』なんだよ?
ほんの一時、お互いの欲望を埋めるためだけに関係を結ぶ相手……それが今のわたしなんだよ……?」
蠱惑的な視線を送りながら──ぷちり、ぷちりと。お姉ちゃんは服のボタンを外していく。
3つ、4つとボタンが外され、そうしてついに彼女の大きくて柔らかな胸が露わになった瞬間、部屋中にむわりと雌の匂いが広がっていった……!
「ぁ、ああ、ぁあ……」
もはやボクは、目の前の光景の虜だった。息は自然と荒くなり、身体中がドクンドクンと血走って熱くなっていく……!
そして──『ママ』はボクのことを抱き寄せると、耳元で小さく囁いてきた。
「ねぇボクちゃん──お姉ちゃんママのおっぱい、吸ってみたくならない……?」
その言葉を最後に……ボクの理性は、完全に吹き飛んだのだった。
『ママ活』をしていたらこんな恐ろしいことになるんだぞと思い知らせたくて書きました。
この小説が広まれば、ママ活に手を出す男の子たちも減ってくれることでしょう……!
ご評価・ご感想、お待ちしています!
15歳くらいの男の子が好きです!