掃除機を操り音速でかける魔女
光が包み込むと青い閃光とぶつかり合い火花を散らした。天空から現れた翠は空を舞う。どうやら間一髪で助かったらしい。
「わたしの大事なコレクションを返しなさい!」
「お邪魔虫…」
翠が距離を詰めようとするも童女は無数のレーザーを放ち応戦する。翠は身体をひねり巧みに掃除機を操りギリギリのタイミングで回避した。
「これじゃ近づけないわ」
明滅するレーザーの光に翠の整った容姿が映し出された。
「ちょっとそこの貴方!」
翠は大声で問いかけた。私のことだろうか?
「な、なによ!」
私は怯みながらも返事をした。
「今朝はありがとう。ちょっと協力してくれるかしら?」
「は!?」
翠は高速で近づいてくるやいきなり私を抱き上げ空中へ舞い上がった。
「キャーッ?!」私は絶叫した。
みるみる高度は上がっていく。眼下には夜を照らす光の景色が広がっていた。しかし、今の私に見惚れている余裕などない。
「今すぐ下ろして!」
私を両手で仰向けに抱える眼前の翠に向かって私は命令した。
「大人しくなさい?」
翠の美しい青い瞳が近づいてくる。
「んう?!」
またあのキスだ。私は屈服してしまった。
「いいこと?私が力を貸してあげるから貴方はその手に持つ箒にしっかりしがみ付いてなさい」
突然、箒が輝き出し、その毛先が見たこともないくらいに逆立った。
「その箒には既に浮遊塵が充填してあるわ。」
そういうと翠は私を突き落とした。
「うそ?!」
上も下もわからないまま私は空に放り出された。しかし、どういう訳か落ちない。
「翠どうなってるのよ?!」
「ちょっと待ちなさい。今アプリをダウンロードするから」
そういうと翠は懐からスマホを取り出し操作し始めた。
「スマホ弄ってる場合じゃないでしょ!」
「良しインストールできたわ!これを使いなさい。」
翠がスマホを投げ渡してきた。画面には何やら見たこともない文字が羅列してある。
「そのスマホがインターフェイスとなって貴方の思念を箒へ伝えてくれるわ。私についてきなさい!」
翠は童女目掛け滑空していった。
「ちょっと待ちなさい!」
取り残されてしまった。私は心細くなり翠のあとへ続きたいと願う。すると箒の毛先がざわざわと蠢き、突然、翠のあとを追うように滑空し始めた。私は驚きと恐怖に絶望した。
「あら上手じゃない!」
翠は私に微笑みかけた。
「いいこと?私と貴方で奴を挟み撃ちにするわよ」
咄嗟に挟み撃ちの構図を想像したが恐ろしくてそんなことできない。何を無茶なことをいっているんだコイツは。しかし、私の思いとは裏腹に止まらないどころかスピードを上げていく。
「ちょっと止まりなさい!?」
私は必死に叫んだ。しかしいうことを聞いてくれない。
「言い忘れてたけど、そのアプリは一度思念したらそれを遂行するまでは他の指令を受け付けられないわ。
排他制御ってやつね」
翠は澄まし顔で私に説明した。
「覚えてなさい。」
私は鬼の形相で翠を睨みつけた。
「可愛い顔が台無しよ?私が先に行って囮になるわ。それじゃまた会いましょう」
翠の掃除機がエメラルドに輝き始めると凄まじいスピードで童女目掛け突進していった。
もうどうにでもなれ。そんな風にやけくそに思いながら私もあとへ続いた。