ルンバに乗った猫
猫は好きだ。見た目は可愛いし、毛づくろいの仕草とかはとても愛らしいしね。それに生き方も好きだ。野生はもちろん、飼い猫であっても勝手に散歩しにいったりだとか必要以上に主人に媚びないところとかは自立して自由気ままに生きているように見えて好感が持てた。でもこの猫は不気味だ。なぜかというと喋るからだ。
「女の子が暗い顔しちゃせっかくの可愛い顔が台無しだぜ。それはそうと人を探してるんだ協力してくれないかい?」
協力したくなかった。不気味だし、喋り方がなんかナンパする男性のようで好かなかった。それに私は早く家に帰って試験勉強の疲労を取りたいのである。
「猫さんごめんなさい。今すごく忙しいの。」
私はそう言って断りをいれた。
「おいおいそんなつれないこと言わないでくれよお。金髪で青い目の子なんだ。」
頭痛がぶり返してきたのを感じた。今朝のアイツの顔が思い浮かんだからである。この猫とは関わってはいけない。私の野生の勘がそう伝えてくるのを感じた。
「生憎だけど、私はその女の子のことは知らないわ」
猫さんには悪いが私はそう嘘をついて家路につこうとした。するとその猫はしめしめとした表情で言い放った。
「おいおいどうして女だとわかったんだい?意地悪しないで協力してくれよお。なあ?」
私はハッして自分が口を滑らしたのに気づくと、肩を落としなくなくその猫の軍門に下った。
私は今朝彼女と出会した例の場所にその猫を案内することにしたのである。
「お、協力してくれるのか?良かったありがとう。俺の名はジャン。よろしくなお嬢さん」
ジャンは私についてきた。しかし普通についてきたわけではない。ジャンはルンバに座り、そのルンバが器用に私の方について来るのである。おそらくジャンが操っているのだろうが、どういう原理だ?それにしてもルンバに運んでもらっている猫の様子がとてもキュートだった。写真をSNSにあげたらいいねが何個付くだろう?とかくだらないことを考えていると程なくして例の場所にたどり着いた。そこには誰もいなかった。
「ここで彼女と出会したのかい?」
私は頷いた。今朝の記憶が呼び起こされるので1分1秒でも早く立ち去りたいと感じていた。
「それじゃあ私はここでお別れね。さようなら」
そう言うとジャンはうるうるとした目で訴えてきた。
「おいおい手掛かりがこれだけじゃ何処にいるか分からねえよお」
そんな可愛い顔でせがまれても。どうしたものか。
「出会った時、彼女はとても興奮してたように見えたわね。記録がどうとか、400年前の塵がどうとか」
私は今朝のことを回想して言った。するとジャンは食いついてきた。
「この辺りに古い神社とか寺はないか?」
古い神社なら有名なのがある。歩いて数十分だろう。ジャンにそう伝えると。
「お、じゃあ次はそこに案内してくれよお。お礼はするからさあ?」
案内することはできるがそこは私の家からは離れた場所にある。とても面倒臭い。
「案内してあげても良いけど、次で最後よ」
そう言って私は寒河神社にジャンを連れていってあげることにした。