表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

多重人格

「あーあ、アンタのせいで始発まで時間潰さなきゃならなくなったじゃない」

先程コンビニで買った無糖の缶コーヒーを一気に飲み干した後で、麻利亜さんは僕を睨み付けた。

「すみません」

外出の時にはいつもつけている黒縁のメガネのフレームが何故か少し曲がっていて掛けづらかった。

「だけど、どうして僕が暴走してるって分かったんですか?」


僕の記憶は依頼人にキスされる瞬間に途絶えていた。

自分でも分かっていたんだ。

あのままあの場にいたら、きっと、僕のもう1つの人格ショウが現れると言うこと。

分かっているなら抑え込めばいいと思うのだが、それがうまくいかないから、ああも簡単に破滅的性格のショウが現れてしまう。


「そんなの勘よ、勘」

女の勘と言うやつなのか?

いやいや、勘でそんなことまで分かる訳ないだろう。

しかも、麻利亜さん瞬きの数が多くなってるし。もう空になっている缶コーヒーに口つけてるし。

明らかに怪しい。

「何よ?疑ってんの?誰のおかげで普通の生活が送れると思ってんの?」

そう言われると何も言えなくなってしまう。

そうだ、麻利亜さんのおかげで僕は生きていけるんだ。

記憶を失い、一文無しの僕を拾ってくれた命の恩人には逆らえない。

「いえ、何も無いです」

「分かればいい、あーあ始発まで何して時間潰そう、明日も朝早いのに…今日の依頼人に謝りに行かなくちゃだし…」

ブツブツ言う麻利亜の愚痴は止まらない。


「だいたい、多重人格って何?記憶喪失で多重人格、更にアイドル?何の漫画の主人公だって話よね?しかも、サイコメトリーのスキルとか…、コケる漫画の典型的なパターンよね?本当は記憶ぐらいあるんじゃない?」

かなりディスられてる。

そんなこと言われても…。

本当に記憶が無いのだから仕方ない。


「もう一人の人格を引き出すには、異性が好意的に責めること」

麻利亜さんはそう言うなり、僕の襟元を掴み、僕の唇に自分の唇を近付けた。

「ま、ま、麻利亜さん?」

「いいから、黙って。ねぇ、キスしない?」

「え?え?え?」


突然の事で頭が真白になる。

キス?これは…またショウが出てきてしまうのでは?


だが…。


唇が触れるギリギリのとこで、麻利亜さんは体を離した。


「何で、私の色仕掛けには落ちないのよ‼私のこと女と思ってないでしょ」


そうだった…、思い出した。

以前、僕のこの多重人格を直そうと試みた時に、麻利亜さんが強引に僕に迫って来たことがあったけど、失敗に終わったのだ。


麻利亜さんはくるりと背を向けると、車道に出てタクシーを止め、


「記憶喪失の多重人格男は始発までそこにいなさい」


と捨て台詞を残して行ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ