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もう一つの人格

「ちょ、ちょっとアンタ急にどうしたの?」

さっきまでとは全く違う態度に、女は慌てていた。

オレは邪魔くさい黒縁のメガネを外しテーブルに投げた。

「自分から誘ってきたくせに、こっちがその気になったら逃げる気か?」

オロオロと狼狽する女を見てたら、ちょっとイジメたくなってきた。

「こんな深夜にカラオケボックスで男と女の二人きりで、しかも、女に誘われて男が何もしないとでも思ってたのか?」

ミニスカートから見えている白くて細い生足。

赤色のネイルとペディキュア、派手目なメイクに服装、相当遊んでいる女だろう。

おまけに巨乳ときたもんだ。

ブラウスから覗き見える胸。

ここでこの女に何をしてもオレの自由と言う訳だ。


「しょ、祥?どうしたの?さっきまでと全く違う…」

怯えた目でオレを見上げる茶色の瞳。

そんな目で見られると余計に興奮してしまう。

部屋の隅で今の状況を理解しきれない女を強引に抱き寄せ唇を奪おうとしたその時。


「こらーーーーー、依頼人に何をしてんのじゃ、われー!」

いきおい良く部屋の扉が開かれ、こっちのキレイな女とは対称的なチンクシャな女が入ってきた。

小太りの貧乳女はオレにゲンコツを食らわせ、オレの襟元を掴んだ。

「しっかり目を覚ませ、まだ自分を抑えられないのか?このボケー」

やかましい声だ。

オレは目を覚ましている。

と言うか目を覚ましたばかりだ。


「今回は本当に申し訳ないです。今回依頼はチャラと言うことで許して貰える?後でお詫びの品を持って改めて伺わせていただきます」

しばらくきょとんとしていた女は助かったと言う顔をして部屋を出ていった。


「おい、待てよ、女」

「お前はいいから、いい加減目を覚ませ!」

貧乳女はオレの頬を思いきりつねり、ポケットから小さな毛むくじゃらの物体を出した。

「ぎょ、それはまさか…」

その毛むくじゃらの物体は急に強い光に当てられ驚いたのだろう。

パッと目を開けて、辺りを見回した。

「ほら、アンタのペット」

そう言って、貧乳女はそれをこっちに投げた。


「ぎょ、ね、ネズミーーーーーーー」


オレの一番嫌いな物がオレを見てクンクンと鼻を動かしオレの服の中に入ってきた。


「や、やめろーーーーー」


意識が遠退く。

せ、せっかく目覚めたばかりなのに。



「うわ」

服の中がくすぐったい。

僕は服の中からそれを出した。

「麻利亜さんのハムスター」

「麻利亜さんのハムスターじゃないわよ、自分が何したか分かるか?この多重人格!」

激おこの麻利亜さんとハムスター…。

と言うことは。

自分が置かれている状況をすぐに理解した。

僕、またやってしまったのか。

異性に強引に迫られると違う人格、女好きで自分とは正反対の人格が現れるのだ。


「僕、依頼人にひどいことしてしまったの?」

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