迷いの森
〜迷いの森〜
禁止区域、この島に住んでいる人間でこれを知らない人はいないと思う。とは言っても別に入れないというわけじゃない。しかしその禁止区域と呼ばれているこの迷いの森のずっと奥に最深部という場所がある。噂によるとその最深部への入り口に入るには昼ではなく夜にしか入れないらしい。どういうことかというと不思議なことに昼にはないはずの道が夜になったらできてそこが森と禁止区域と呼ばれる最深部へ繋ぐ通路?みたいなものらしい。不気味だ。あと訳がわからない。でもそう聞いている。昨日、というか僕は意識を失っていたので正確には3、4日前、幸せのパン屋さんにきてた常連のおばあさんが言っていたのはその最深部の一番奥にたどり着ければ夢がなんでも叶うという言っていたことがふと頭をよぎるが店長の言葉ですぐに我にかえる。
店長「なあこの先に見えるのが禁止区域の最深部ってやつだろ」
橘先輩「お、おうそうだろ、てかまさに空洞みたいなやつがあるし…てか先全然見えねーんだけど」
店長「あとはここだけだ、んっ?なあに心配すんな春樹、絶対にいる。神隠しじゃねーんだ。この世からいなくなるなんて絶対ありえねー、それに自分達の目で見ねーことには信じられねぇからな」
春樹「店長…はい、必ず」
橘先輩「あのさぁ~格好つけたいとこはわかるんだけどさ…」
店長「あぁん?」
先輩の怒るプチっという音がした。
先輩A「あぁんじゃねーよ!てめぇ!!さっきから俺の後ろにしがみつくのやめろっつってんだよ!腰が引けてケツ出てんぞバカヤロウが」
店長「ば、ば、ば、ば、バカいうんじゃねーよ!その言い方だとまるで俺がビビってる見てーじゃねーか?」
橘先輩「そのとおりだろうが…」
禁止区域に入ってからは基本的に先輩A→店長→僕と縦に並んで歩いていって、店長は基本先輩の腰にずっと手を押し当て前へ無理矢理押しながら歩いていた。
店長「うるせー!てか先ライトで照らしても見えねーとかどんだけ暗いんだよホラーすぎるだろ、なに、狙ってんの?、てかまずだいたい警察が探せよ、何やってんだよ!」
店長は後半ぶつぶつ愚痴を言っていた。
橘先輩「…ったく、まあでも気持ちはわかるけどな、俺も昔昼に小学校の遠足でどんぐり拾いにこの森にきたことはあるけど、よく遊び回ったからな、今でも覚えてるぜ、ここにこんな空洞、確かになかった。」
店長「ったく胆試しってレベルじゃねーよ、ったく」
店長はそう言うとハァとため息をついて先輩の後ろから手を離し、堂々と中に歩いていこうとする。
それを見て先輩も ビビりのくせに無茶しやがってと言い後ろからを追っていく。そして僕も追おうとしたその時だった――
ビリッ、と指先に電気のようなものが流れた気がした。それに応じて先輩達を自分でもわからずに呼び止める。
春樹「待って!!」
二人共急に大声で叫んだ僕の声に驚く。そして二人同時に
店長&橘先輩「「わあ!!びっくりしたあ!!!」と大きな声でいうとすごい勢いでこちらに寄ってくる。
店長&先輩「「バカヤロウ急に大きな声出すんじゃねーよ」」
とすごい勢い怒られた。
春樹「ご、ごめんなさい」
店長「…ったく心臓止まるかと思ったぞ、で、どうしたんだ?」
春樹「…えっ?」
店長「えじゃねーよ、お前がこんな時に冗談を言わねーことくらいわかってる。」
春樹「あ、いえ、ただ…」
橘先輩「いいから言ってみ?」
春樹「……やっぱり帰りませんか」
と言った。
橘先輩「は?帰るってここまで来てか?そりゃあねーだろ、なんかあんのか?」
春樹「いえ、ただ、なんとなくすごく嫌な予感がして…」
店長「……まあ確かにこんぐらい怪しいとこならそれぐらいするわな、まあお前に本気で強制するきはねーよ、怖いんならここにいていい、俺達が変わりにいってくる」
春樹「あっいえ、そうじゃなくて!」
橘先輩「心配すんな春樹、そんぐれー任せろ、じゃあちょっと待ってろよ、すぐ帰ってくっから?」
そう言いながら二人は中に進んでいく。
春樹「ちょ、ちょっと待ってください、僕も行きます」
そう言うと僕は店長達の後を追って最深部への入り口の空洞へ入っていく。ほんの小さなしこりのようなものを心に残して。
――そして僕はこの時の選択を一生後悔することになった。