親戚の家
~自宅~二ノ宮家
ホタルとの面会時間を終え僕は急いで病院を出て家へと向かった。
時刻は19時30分。もう日はに沈んでいる時間で完全にやらかしたと思い少し憂鬱な気持ちで家へと入る。
春樹「お疲れ様です。今戻りました…」
ゆっくりとそして可能な限り丁寧にドアを開けるがドアの前に立つ人物を見てすべて無駄だと悟った。
女性「門限はとっくに過ぎているはずだけど…」
春樹「…ごめんなさい吉乃おばさん少しバイトが長引いちゃって――」
そう言うとと同時に思いっ切り顔を叩かれた。
吉乃のおばさんは倒れた僕を見ると何事もなかったかのように冷たい目で
吉乃のおばさん「早く晩ご飯を作りなさい。30分も遅れて何様のつもりよ次遅れればバイトと外出、全て禁止にするからね」
といった。
春樹「…はい、わかりました」
すると僕も何事もなかったかのように立ち上がり荷物を置いて晩ご飯の準備に取りかかる。
準備をしながらふと思った。いつからだったろうか、初めて他人の家をうらやましいと思ったのは。
本当の両親は僕の物心がついた時には既にいなかった。どうやら二人ともに行方不明だそうだ。一応捜索願いが出され警察等様々な捜索が続いたが一年以上手掛かりもなく進展もせずに捜査は打ち切りとなった。初めは父がいなくなり、そして母もその後を追うようにいなくなったらしい。
そして僕とホタルは叔母、母の方のお姉さんの家に連れていかれることになった。そのこともあり僕は物心がついた頃には既にこの家にいた。僕はその時幼稚園生くらいで妹のホタルと新しい父と母になったおじさんとおばさんに引き取られることが決まった。そこからはこのような毎日はずっと続いた。正直初めは叔父さんも叔母さんもすごく良い対応をしてくれていたのだが僕らを引き取った後僕の両親の保険金を引き止ると態度が少しずつ変わっていった。ホタルに関しては当時から体が弱く、病院での生活を余儀なくされていたのでこのことは一切知らないはずだ。だが僕自身正直お父さんとお母さんのことをまったく覚えていないので家族というものはこんなものだと信じてきた。だから当時はなにも感じなかった。これが当たり前のことだと信じてきたから。しかし小学校に入り初めての授業参観で周りとの違いに気づいた。他を見て思ったんだ。だってウチにはない暖かいなにかがあったから。それから誰かと遊ぶことも自分が何をしたいのかもわからないまま生きてきた。それでもホタルと会う時だけは別だった。本来はあんまり良いことではないが僕は病院に行くことが楽しみでもあったんだ。どんなに家で色々あろうと叩かれてもホタルといる時だけはそれを忘れることができた。だからこそいつかホタルの体調が良くなった時にこの家を出て二人で一緒に暮らすのが僕の初めてできた夢だ。自分はどれだけ使われてもかまわない。でもホタルにまで自分と同じ目に遭わせるわけにはいかない。
だから僕はホタルが退院するまでに家を出て生活できるだけのお金が必要だ。そのためにお父さんの元知り合いだった人、店長にお手伝いという名目で僕が小学2年生の時からアルバイトをさせてもらったり他の仕事を紹介させてもらっている。お金をたくさん稼がなければならない。
僕は料理が出来ると同時に出来るだけ表情を作り、明るく料理を運ぶが叔母さんの息子の垂水大介くんが足を引っ掛けてきたので、料理が叔父の顔におぼんごと思いっ切り直撃した。ぶちゃ
という音ともに僕は顔から血の気がサーッと失われていくのを感じる。
おじさん「おい、小僧…」
春樹「いえ、おじさん今のは―――」
いつものことではあるけど有無を言わせずに容赦なく叩かれる。スパァンと音が部屋中に鳴り響く。そこからはマウントをとられて、
おじさん「生意気いうなぁ!!だいだい――」
パンッと1回
おじさん「お前らの――」
2回目と叩かれ
おじさん「学費を、入院費を、誰が、出していると、思っているんだ!!」
3回、4回、5回と叩かれてさすがにされるがままにされる。いくら中学生になっても大の大人から殴られ続けて平気なわけがない。
しばらく殴られ続けてようやく満足したらしいおじさんが
おじさん「いいか、絶対勘違いするような真似は起こすなよ。所詮お前はこの俺が稼いだお金で飯を食わせてもらっているんだ、わかったな」
春樹「…はい」
色々と言いたいことはあったけどそれを口にしたところで何も変わらないし、むしろ状況が悪化するだけだ。そのことをこの数年の生活できちんと学んでいる。
春樹「すみませんでした」
と頭を下げると元気くんの方をちらりと見る。するとニヤリと笑っている彼の顔がよく見えた。僕は心の中で、はあ とため息をつくと直ぐにこぼしたものの後処理と料理の準備を始めた。